全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~

彼は、彼女が子どもを宿している希望を抱く

 貴族の爵位は、直系男子がいなければ、一番近い男性親族に継承される。
 デルフィーの父は貴族の次男で、それはアベリアにも伝えていた。
 もし、アベリアに父の家名を聞かれていたら答えていたけど、それを伝える機会はこれまで無かった。
 デルフィーの父は、ケビンの両親が亡くなった火事で一緒に亡くなっていて、デルフィーの父は、ヘイワード侯爵家の次男だった。
                                 
「本当にケビン従兄には直系の後継者候補はいないのだな? あの愛人の腹の子へ、胎児の認知について書類は書き残していないのか」
「ケビン様は、あの方との子どもは、産まれた後でさえ認知をしないと仰っていた位です、そちらは問題はありません。ですが、私としては、アベリア様の方が気になりまして……。まあ、ご本人が否定しておられましたので、この件は全く心配はありませんが」
「アベリア様がどうした?」
「あー、もう前夫人となりますので、デルフィー様には関係はないかと思いますが。昨日、アベリア様をお連れした御者の話では、体調の悪さが、その、あれです……、妊娠初期の悪阻のようだと言っていました。御者の妻が最近妊娠が分かり、様子が一緒だったと報告を受けていたので。でも、アべリア様は、ケビン様の子どもは身ごもっていらっしゃらないと、断言されていました」
「アベリア様が……そんな」
                                 
「ですから、ご安心ください。もし仮に、ご妊娠されていても、ご自身でケビン様の子ではないと、お認めになってこの家を出て行きました。侯爵家には全く関係の無いことで、デルフィー様へ、この家を継承するのに問題はございません」
「アベリア様がどこへ行ったのか、心当たりはないのか? 彼女がここで過ごした1年でよく行っていた所はどこだ!」
「っと言われましても、私共、この邸の者全ては、これまでアベリア様とは、話したことも、関わったこともほとんどありませんから。唯一、アベリア様の身近にいた侍女も一緒に邸を出て行きましたので、正直なところ一つの心当たりもありません」
「何だとっ! 女主人に対してこの邸の人間達は、どんな扱いをしていたんだ、全く。ここで仕える者達も一から見直す必要がありそうだ」
「それと、デルフィー様。別邸にお住まいになっている、あの方の事もケビン様の葬儀が終わりましたらご検討ください」
                                 
「……ああ、分かってる。――申し訳ないが、ここでしばらく1人になりたい。すべきことは、早急に対処していくから、あと少しだけここにいさせて欲しい。後で、私からそちらへ向かう」
                                      
 デルフィーは、邸の執事と話している途中から、立っていられない程の衝撃を受けていた。
 アベリアは、おそらく自分の子どもを身ごもっている。
 彼女がそれにいつ気がついたのかは分からないが、自分には打ち明けてくれなかったことが悔しかった。
 それと同時に、アベリアはヘイワード侯爵領へ乗合馬車で向かっていて、明日にでも自分の元を訪ねに、あの邸へ現れるのではないか? と淡い期待も抱いていた。
                           
                              
                                     
 だけど、デルフィーの気持ちを知らないアベリアは、彼の事を思って、自分の気持ちに蓋をしている。
 アベリアが戻って来るのは、彼女が宝と言っていたものが溢れる頃で、まだ、遠い先のこと。
                                 
< 42 / 53 >

この作品をシェア

pagetop