猫かぶりの柳沢くんは、独占欲が強め



鏡がないからどんな顔をしているのかはわからない。

だけど顔がこれだけ熱いから、真っ赤になっているのは簡単に想像できた。


……最初の頃は、演技の甘い言葉でも思わず赤面して狼狽えてしまうこともあった。

だけどそれに慣れた今は、演技だとわかっていれば甘い言葉もさらっと聞き流せるようになった。


そのスルースキルを発動できないということは、私が柳沢くんの本気さを感じ取ってしまったからに他ならない。




「だって偽装カップルやるって決めたとき、『本気で好きになるのとかはなし』って言ったの、柳沢くんだよ?」


「そうだね覚えてる。偉そうに言ってたのは何だったんだって、いくらでも笑えばいい」


「でも、だって……」


「本当は少しずつその気にさせるつもりでいたんだ。だけど、回りくどいやり方じゃあんたに通じないっていうのは、もうわかったから」




まっすぐ真剣に私を見つめる目。

わずかに緊張を含んだ声で、柳沢くんは言う。


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