初恋の味は苦い
「どうも」・・・!!!

マスク越しに、目元だけでは反応が伺えない。

少し目が合った気がしたところで素早く私の方から逸らした。

近くで見ても相変わらず好きな顔をしてる。
こりゃあ、恋に落ちるわけだ。

あれからしばらく消せなかった連絡先。

「あの」

多田祥慈が頭上で声を発した。少し見上げる私。

「覚えてる?俺のことー」

思考回路が止まるってこういうことだ。
これは、何ということ。
覚えてるも何も、全てが初めてだった人。

初めて付き合った日。
初めて手を繋いだとき。
親に内緒で会った花火大会。
かわいいプレゼントを贈り合ったクリスマス。
そして、何度も行った祥慈の部屋。

私が頷きかけたところで、社長が戻ってきた。
つい優希も私も社長に視線を配り、それから目の前の多田祥慈に小声で「うちの社長です」と教えた。

多田祥慈は「あっ」と言って足速に社長の方へと向かっていく。

彼がいなくなって、やっと現実世界に戻ってきたようだ。

どうしよう、本当に多田祥慈が戻ってきた。
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