初恋の味は苦い
さっきから何度も送り先を確認してるのに、送信ボタンを押すのに5分近くかかってる気がする。

何も頭に入ってこない。

視界には入らずとも、脳の隅で認識している。業務室端、窓の近くに座る白シャツチノパンの彼を。

どうやって挨拶するべきか、遅かれ早かれ分かることなのに。

できれば向こうから気付いてほしい。

もしくはもう既に私に気づいている?
それでいて避けているのか、なんて悶々と考える暇があったら私から声を掛けるべきでは。もう大人、27歳だし、あの頃とは違うし。

そうだ、そう。

私が彼に瞳を投げようとしたその時、「りつ」と左肩背後から声を掛けられた。優希だ。

視線を向けると私は椅子の上でおったまげた。

優希の隣には、先ほどまで業務室向こうの窓際にいたはずの彼が、多田祥慈がいるではないか。

驚く私を見て、多田祥慈も少なからず「あ」と衝撃を物語るような目をした。

今私に気付いたようだ。

「さっき言ってた、多田さん。同じ高校かと思って。多田さん、こちら営業の森山りつさんです」

優希が簡単に紹介してくれたので、少し遅れて立ち上がる。

「どうも、森山りつです」

かろうじて声帯を震わせ震わせ声にすると、多田祥慈が少し目元を笑わせながら「どうも」と言った。

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