初恋の味は苦い
店員が静かにテーブルにシャンディガフと琥珀の夢をトンと置く。
そして立ち去って行った。

「まあ、飲んでからにしようよ、こういう話は」

祥慈はそう言って乾杯の姿勢を取る。
傾けられたグラスの先に、私は少し遠慮がちにグラスを当てた。コンッと安い音がした。

「結婚考えてないの?」
「俺、向いてないんだよね、恋愛」

祥慈は頭を掻きながら店内の遠くを見る。

「本当に好きになったこと、ないっていうか、彼女とか恋愛より他のことの方が大切なんだよね」

遠くを見たまましばし視線は止まっていた。しかし、その視線はサラダを運んできた店員を見つけるとなぞるように動き始め、最終的に私たちのテーブルの上で止まった。

やっときた、レタスばかりのシーザーサラダ。私が取り皿を寄越すように手を出すと「いいよ、そういうの」と言って断ってきた。

「って、今はりっちゃんはただの会社の人間ってことで話してるからね、俺」

付け足したように言う。

どういう意味だろう。

明らかにドレッシングが足りないのを、何とか伸ばし伸ばしサラダを頬張ると、続けてボリューミーなソーセージたちが運ばれてきた。軽く店員に会釈し、ソーセージを一本取り皿の上に乗せると「それで」と話題を切り出してきた。

「りっちゃんはいるの、彼氏とか」
「いたら今こうして二人でいないと思う」
「かた・・・」

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