初恋の味は苦い
「なんか腹減ったね」

祥慈が目を細めて私を見る。

「4時かー、夕飯じゃ早いかな」
「私お腹空いた」
「腹の音聞こえてたよ」
「え、うそ」
「あれ、りっちゃんだよね」
「気のせいじゃない?」
「めっちゃ鳴ってたよ、俺真剣に話してんのに笑わせようとしてくる」
「してない」
「味噌カツかーひつまぶしかー、コーチン料理、コーチン料理だな」

祥慈はサラリと話題を逸らして店の検索をし始めた。

「ここでいい?」

そう言って隣を歩く私にスマホ画面を見せてきたので、覗き込む。

「いいんじゃない?」

そのまま私はスマホ画面から祥慈の顔に視線を移すと、至近距離で目が合った。

「距離ちかっ」

祥慈が笑うので、私はつい反射的に一歩引く。

「ドキッとすんじゃん、やめてよ」と祥慈は胸元に手を当てる。

「そっちがスマホ見せてきたんじゃん」
「スマホだけ見てればいいじゃん、なんで俺の顔見んの」
「普通でしょ、別に」
「あざといわー、そうやっていろんな男をどうせたぶらかしてきたんでしょうよ」

そう言って私の左腕を軽く肘でつついてきた。

4時を過ぎたのに、まだ暑くて太陽はじんじんと私たちを焼き尽くそうとしていた。

少しずつ名古屋の夜が始まろうとしている。
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