初恋の味は苦い
私の表情が曇ったのを見たのか、すぐに祥慈が口を挟む。

「すみません、かなりこの点ですね、弊社では異例なオプションになりまして、すごく重要な部分でもありますし、一旦戻ってメールの方でご連絡させていただけたら。それと正直なところ、こうして私も営業で来といてなんですが、期間や予算を踏まえると最初は一番シンプルなパッケージのみを導入してですね、様子を見て、それから必要であればオプションを追加するという流れの方が技術的に現実的かなというところではありますね。なんか、営業としてはダメかもしれないんですが」

そう言って笑って締める。祥慈の言葉に八島さんも「多田さんがそうおっしゃるなら、今日のところは」と笑顔になった。

うちの商品を導入する流れはおよそ決定事項のようだ。なんだか、今日一日ほぼ祥慈が進めてくれていた気がする。

打ち合わせが終わり、また1階ロビーのガラス張りのところまで来て、八島さんと挨拶をして自動ドアの外に出た。

モワッと一気に蒸せるような暑さが再び私たちを覆う。私はずっと手応えのないまま、フワフワとした感覚に包まれたままだ。

八島さんの姿が見えなくなったところで祥慈がスマホを取り出し電話をかけ始めた。

私はその所作をただぼんやりと見つめるだけで、本当は私がやらないといけない本社への報告を祥慈がサラリと目の前で済ませていることに気付くのは後になってからだった。

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