初恋の味は苦い
「寒いね」と祥慈が先に笑う。

「おかえり」
「ただいま」

久しぶりに会った祥慈が笑顔で良かった。

私は長らく笑顔の彼を見ていなかったように思う。

「明けましておめでとう」

私は忘れていた年始の挨拶を、久しぶりに口にした。祥慈が笑う。

「おめでとう」
「あれ、会ったら何か言ってくれるんじゃなかったっけ」

私は彼の顔を下から伺う。
顎のラインにある黒子は、昔から変わらない。

祥慈は少し私を見下ろす。

「付き合ってください」

なぜか祥慈はそう言いながら噴き出す。

「なんで笑うの」
「だってこんなんもう言わないもん、付き合ってくださいとか。高校生かよ」
「本気で思ってる?」
「思ってる思ってる、りっちゃんの彼氏に俺がなる」

祥慈はまたも笑いながら言う。

私は静かに頷くと、空いている手を祥慈が取る。

「会社の人に見られるかもよ」
「別に、見られたら普通に言えばいいよ」
「いつ名古屋戻るの」
「今日本当は日帰りの予定だったからホテル取ってないんだよね」
「じゃあどうするの」
「泊めて下さい」

私は渋々頷いた。
繋がれた手は暖かかった。
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