私の何がいけないんですか?
 翌日、私はヨナス様の担当から外れることになった。それどころか、彼との接触を一切禁止された。両陛下の判断だ。
 ハンネス様の目の前で、あれだけの執着っぷりを見せつけたのだもの。引き離した方が良いと判断するのは当然だ。正直言って私もホッとした。周囲には、一切の事情が伏せられていたけれど。


【どうか、考え直してほしい】


 それでも、そんな内容の手紙が毎日ヨナス様の元から届く。手紙を運んできた騎士や文官から返事を書くよう求められたけど、すべてお断りした。


 そんなことが続いたある日のこと。友人の一人がこんなことを耳打ちをしてきた。


「ねえ、知ってる? ヨナス殿下がクラウディア様との婚約を破棄しようとしているそうよ」

「そんな、まさか……!」


 二人が婚約を発表したのはほんの数週間のこと。俄かには信じがたい話だ。けれど、彼女はヨナス様の侍女。ある程度の信憑性はある。彼女の言葉はこんな風に続いた。


「殿下には他に想い人が居るんですって。その人とどうしても一緒になりたいらしいの。今、陛下に掛け合っているって話よ」


 侍女はそう言って、私の顔色を覗う。


(――――それで? その想い人が私だって言うの?)


 ハンネス様と知り合う前の私なら、きっと喜んでいただろう。ヨナス様に選ばれて嬉しいって。クラウディア様の気持ちを考えることなく、歓喜したに違いない。

 だけど、今は嬉しいなんて思えない。寧ろ軽蔑してしまう。


「酷い話ね」


 言えば侍女は明らかに落胆した。
 恐らく彼女は私の反応を見てくるよう、ヨナス様に指示されたのだろう。こんな噂が広まったら一大事。王家の面目丸つぶれだもの。おいそれと口外できる筈がない。
 当然ながらそれ以降、城内や社交界でそんな噂が流れることは無く、二人の婚約は保たれたままだった。


 そうこうしている間に、領地へ里帰りをする前日となった。
 ハンネス様の国へは、領地から向かった方が断然早い。このため、これが王都で過ごす最後の夜だ。
 長い年月を過ごしたこの城に、愛着が無いと言ったら嘘になる。ソファに腰掛け、私は一人静かに感傷に浸っていた。


「――――エラ、僕だよ」


 だけどその時、扉の向こうからそんな声が聞こえてきた。
 ヨナス様だ。


「中に居るんだろう? 開けてよ。最後に少し、話をしよう」
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