結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
 ローズを問い詰めたが記憶を取り戻す手段は見つからなかった。催眠術を再度試すが、ローズを記憶の中から追い出すことはできても完璧ではなかった。

結局、ローズを隣国へ追い返すことで決着を図り、アルベルトは記憶の中にいない女性を探し続けた。

 ——僕は、愛した女性を忘れてしまっている。

 珊瑚色の髪の女性が、愛した女性なのかどうかさえわからない。医者は時が経てば薬の効力も薄くなり、思い出すだろうと言ったが、いつまでたってもあやふやなままだった。

 兄の忘れ形見である孫はいなかった。その事実に打ちひしがれた父は引退を決め——、アルベルトが全てを受け継いだ。それからはがむしゃらに働いて、時には非道な手段も使い、ヘザー商会をヘザーズという大会社にした。働くことで気を紛らわせていなければ、狂いそうになった。

 ——僕の愛した女性は、どこにいるのか……

 自分の痕跡を辿ってみても、見つけ出すことができなかった。滞在したことのある街を訪問しても、何も思い出せない。セイリュースにも何度も足を運んだけれど——。

——六年もたっても僕はまだ、欠けた記憶を取り戻せないでいる。

 そんな時だった。セイリュースで事業を進めることになり、訪れた先で肖像画の女性に似た人を見つけた。給仕係をしている彼女の髪の色が珊瑚色だったことで確信した。

 ——ようやく見つけた、珊瑚色の髪の女(ひと)。




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