結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
「えぇ、おかげさまでゆっくりできたわ。リヒト、ほら挨拶して」
「おはようございます」
「お、偉いなリヒト君は。きちんと挨拶できたね」

 膝をかがめたアルベルトは、リヒトと視線を同じくして頭を撫でる。機嫌のいい様子のアルベルトは、立ち上がるとソフィアたちに部屋の中に入るように促した。だが、ソフィアはそれを断るように手を振った。

「いえ、アルベルト。私たち、もうここで失礼するわ。あなたの記憶も元に戻ったわけだし、ナード畑をそのままにしておいてくれれば十分なの。昨日はごちそうになったわ、ありがとう。じゃ、もう行くね」

 ソフィアは朝起きて、もうこれ以上アルベルトの近くにいる理由がなくなったと思い至る。約束していた条件は、記憶が戻る手伝いをすることだった。昨日の夜はソフィアがワインを飲めなかったことなど、細かなことまで思い出していた。

 リヒトを自分から引き離すことはない、と言ってくれたからこれで元の生活に戻ることができる。ソフィアは努めて明るい笑顔を見せて、ホテルを去ろうとした。

 するとアルベルトはあり得ないとばかりに立ちすくむと、一瞬言葉を失ったように驚いて手に持っていた書類を落としてしまう。

「なっ、ソフィア? はぁ? 帰るって、どこに行くんだ」
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