結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
 ジミーからは他の糸を使ったらどうかと言われている。確かに他の糸でも綺麗な作品はつくれるけれど、ナード糸の光沢にはどうしても見劣ってしまう。

「ソフィア、またいつでも作品ができたら持って来てくれよ」

 ジミーは朗らかに笑って手を振った。黒い短髪に浅黒い肌、細身だが背の高いジミーは見た目も良く地元の元締めの息子だ。色眼鏡で見てくる男性には抵抗感を持つが、ジミーだけは友人として気安く相手をしてくれる。ソフィアにとって、大切な男友達だった。

 ナード糸の入った紙袋を受け取ると、ソフィアは急いで外に出た。ソフィアの天使であるリヒトを迎えに行くため、ぺったんこの靴を履いたソフィアは小走りになって坂を下り、雑貨店の二階の家に戻って行った。





「ママ!」
「リヒト、今日もいっぱい遊んできた?」
「うん! いっぱい絵を描いたよ!」
「まぁ、また絵を描いていたの?」

 リヒトはクレヨンを持てるようになった頃から、しきりに絵を描く子だった。他の子を知らないのでこんなものかと思っていたが、お隣に住むレティの子どもたちを見ていると、どうやらリヒトは年齢の割には上手に絵を描くようだった。

 といってもソフィアには真っ白なスケッチブックを買う余裕もないため、リヒトはチョークを持って白い壁に絵を描くようになった。チョークであれば、水をかければ落とすことができるのでまだ安心だった。

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