国民的アイドルの素顔についての報告書
やけに優しくて柔らかい声が落とされたあと、私を包んだのは小さく震える腕だった。

「ごめん、ほんとは不安で仕方なかった。ずっと、優しくしたかったのに」


ぎこちない動きで、大きな手のひらが私の頭を撫でる。


「どこか行かないか、不安だった。めぐはアイドルやってる俺のことが好きだと思ってたから、無理してたんだけど、逆効果だったんだな」

ぎゅ、と拓斗を包む服を握る。私と同じ洗剤の匂いに、シトラスの香水と拓斗の匂いが混ざって私の脳をくらませる。

「俺、弱いけど、嫌いにならないで。好きな人も大事にできないダメな男だけど、ずっと俺の腕の中にいて」


私が壊れないように、優しく抱きしめる。物足りないと思うくらい、弱い力だった。

一緒に住んでいたのに、ずっと好きだったのに、こんなことも言えなかった。
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