愛される女の恋愛テクニック
 わたしにとって櫻庭さんは、それだけの関係でしかない人だった。


 その距離感での関係は、明確な期間は憶えてないけど、半年くらいはあったと思う。


 週末の今日だって、ほんの数秒前までは、これまでと同じだった。


 残業の合間に行った休憩室に、櫻庭さんがいた。


 他には誰もいなかった。


 櫻庭さんはいつものように、自動販売機の近くのテーブル席に座ってた。


 わたしが休憩室に入ると、こちらを一瞥(いちべつ)して、すぐにそれまで見ていたスマホの画面に視線を戻した。


「お疲れ様です」

 わたしのその挨拶にも、スマホを眺めたまま「うん」と返事をしただけだった。


 櫻庭さんが座ってる場所の近くにある自動販売機に、わたしが近付いていく時も、スマホを見てた。
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