ブルー・ロマン・アイロニー
Android with Amnesia



「待てって。おーい」


後ろを確認するとアンドロイドがついてきていた。

わたしは血の気が引く思いで、ぐんと歩みを速める。


なんで、なんで、なんで。

このアンドロイドはわたしについてくるの。



「なあ、名前付けてくれよ」


わかってる。わたしがマスターになってしまったからだ。

このアンドロイドは勝手にマスター声紋認証をおこなった。さっきの電子音がその証拠。

そしてわたしはそれに、疑問形ながらもはい、と答えてしまった。



「それよかお前の名前は?」


言うわけがない。

待つわけもないし、名前を付けるわけもない。

わたしにとっての早歩きは、向こうにとっての優雅な一歩にすぎないらしい。

ゆったりとした足どりで、それでもひな鳥のようにどこまでもわたしについてくる。



「なあって。名前、教えてくれ」


どうしてそこまで名前にこだわるのかわからない。

アンドロイドとしては珍しいほうだと思う。

というのも、アンドロイドはそれぞれ個体識別名を持っていてそのまま呼ぶことも多いし、こちらの名前も呼ばせないかぎりは基本的にはマスターと呼ぶように設定されているはずだ。

それなのにストーカーのごとく背後を歩くこのロボットは名前というものに執着している。


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