ブルー・ロマン・アイロニー
「……約束して」
「あァ?」
「わたしがあなたを所有するのは期間限定。1ヶ月たったら、わたしはマスター権限を解除する」
「なんで」
「なんでって」
びっくりして言葉がすぐに出てこなかった。
わかりました、じゃないの?
はい、って答えるんじゃないの?
なんでアンドロイドが人間に意見してくるのか、わからなかった。
「見たところお前、アンドロイド持ってないだろ?自分で言うのもなんだが、俺は使えるぜ。それがタダで手に入るってんだ。こんなうまい話、他にはないと思うが?」
「……いい。いらない」
「いいってお前、つれねえなぁ。……あー…、これは言うつもりはなかったんだが、俺はお前ら“人間”の────」
「っ、わたしはッ!、っ……わたし、は」
やめて、人間という言葉を使わないで。
人の心を知らないくせに。
アンドロイドなんて、ただの鉄の塊のくせに。
「わたしはっ……嫌いなの、アンドロイドが…大嫌いなの」
強く握りしめた拳に爪がくい込んで痛かった。
だけどそれよりもずっと心が軋んでいた。
「だからいらない。わたしに、この世界に、アンドロイドなんていらない」
それだけ言って、わたしはアパートの階段をあがっていく。
後ろをついてくる人の形をした機械はもうなにも言わなかった。
錆びた階段がぎしぎしと軋んでいる。
いつか崩れてしまうかもしれない。
はやく大家さんに言わなくちゃと思っているのに。
わたしはもうずっと、それを見て見ぬふりをしていた。