教壇の教師、悪食なり
「先生が好きです、どうしたらお付き合いしてもらえますか」

呼吸が止まった。持っていた書類をばさっと落としてしまった。
そのままぎごちなく拾うと、彼も拾ってくれた。動揺でふらふらした。
それでも、足で踏みしめてまっすぐ見つめ返した。

「冗談か本気かどっち?」

聞かなくてもわかる馬鹿な質問だった。

「もちろん、本気、です」

背中から汗が噴き出た。じとり、と滲むような嫌な流れ方をする。
切なそうに見下ろされると、嫌なくらい鼓動が高まった。
答えは勿論断る、だがどうやって言うのが正解なんだろう。

顔から急に体温がひいていくのがわかる。唇が震え、立ってられなくなり、後ろに重心を持っていかれた。
足が階段を踏み外したのだと悟った。
彼の眼が見開かれて、焦ったように手を伸ばされる。
同じように手を伸ばそうとしたが、手を握ることはできず空をさまよった。私は一連の動作が、走馬灯のように見えた。
内心、今すぐ答えを言わなくていい安堵感に包まれ、すぐさま背中と頭に衝撃が走り、真っ暗闇に落ちていった。


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