【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?

「でもさ。そんなの当たり前じゃない。ただの代役相手に本当のキスなんてしないでしょ。それにまた漫画家と編集者に戻るんだから」

「そうらよね!だから余計に腹が立つ。恋愛経験の少ないわらしを見て笑ってるのよ!キスぐらいどうってことないのにね─」
いやいや誰もあんたの恋愛経験なんて知ったこっちゃないって。

「それより肝心の模擬挙式のバイト、穴あけちゃったんでしょ?せっかくの山田さんからの紹介だったのに、そのおねぇ口調のプランナーさんに怒られたでしょ」

山田さんとは晴つながりで何回か三人で飲みに行って以来、ライン友になった。

意外と晴より山田さんのことはよく知っているほうだと思う。例えば、恋の悩みとか……山田さんバレバレなのに当の相手にだけは伝わっていない様子。

「それがね。小笠原さんの彼女さんのドレスと髪型が偶然にも一緒らったから、スタッフさん間違えちゃったみらいで。まっちゃんさんもこっちの不手際らし、状況も理解してくれて模擬挙式のほうはスタッフさんが代役してくれたのぉ。まっちゃん、()()()()人だったな─」

晴。その言い方はまっちゃんさんが誤解されるぞ。

「それで、その編集者さんのお嫁さんは結局戻ってこなかったのね。なんか可愛そう、その編集者さん」

私がそう言うと、晴は目を遠くに向けながら急に大人しくなった。

「そうらのよね─……な─んでわらし、あんな突拍子のないこと言っちゃたんらろ─。う─ん、まきちゃんおかわり!」

コップを高々に上げた晴の手元を見て驚いた。薬指には結婚指輪がはめられていたのだ。

「ちょっと、晴!これ結婚指輪でしょ?あんた編集者さんに返すの忘れちゃったの?!」

そう言われた晴は自分の手元をボーとしながら見つめている。おそらく今は思考能力0に近い状態になりつつある。

「わすれてら─」

「もう月曜日ちゃんと返しなよ。それに酔いすぎ!今日はもう帰って寝なさい」

「まきちゃん。おかあさんみらい─」

「私はあんたみたいな酔っぱらい、産んだ覚えはないよ」

こりゃダメだ……
そう思った私はスマホを手に取り、功太くんの番号に電話をかけた。

それから功太くんに怪しまれないよう、結婚指輪を外し晴のポケットに入れる。

──これじゃあ本当に晴のお母さんみたいだよ。ここまで気の利く自分が嫌になる。

私は晴を見つめながら一つ溜め息をついた。
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