【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
二人の新たなる気持ち

私にとってタワーマンションは遠─くから見つめるだけのものだった。近づいたこともない領域。
しかし上から見る夜景は何度見てもうっとりさせられてしまう。

──こんな夜景でプロポーズ!って漫画とかではよく見てベタだな─と思っていたけど、今だったら自分でもついOKしちゃいそう。

いやいやダメだ!と自分の頬をパンパンと叩く。眠くなるとついつい違う妄想に逃げてしまうのは私の悪い癖だ。

私はまた机に向かい漫画を描き始めた。
その時、玄関のドアがガチャと静かに開く音がする。

一緒に同居して二週間ぐらい経ったけど、小笠原さんの帰りはいつも遅い。今日も既に夜中の一時を越えている。編集者ってそんなに帰りが遅いものなのかと、その時は軽く思っていた。

「小笠原さん。おかえりなさい。今日も遅くて大変ですね」

「……あ。あぁ、片桐さんか。コホッコホッ、片桐さんもまだ起きていたんだ」

──あれ、小笠原さん。なんだかあまり顔色が良くないみたい。やっぱり疲れているのかな。

「私はその、漫画を描き進めなきゃいけないので。それよりも何かお夜食でも作りましょうか?」

「いや、少し食べてきたから大丈夫。あと明日から三日間、俺出張で家あけるからくれぐれも余計なことはしないように」
いつも一言多いんだよな─。私信用ないんだろうか。

そう言い残すと小笠原さんはすぐに自分の部屋へ入ろうとした……が、その足がもつれかかって大きくよろめいてしまった。

危ないと思った私は咄嗟に小笠原さんの体に手を添えたけど、バランスを崩して二人共に倒れてしまった。

“ドンッ!ガタンッ……”


いった─……くない?
「小笠原さん!大丈夫ですか?」

「……あぁ、大丈夫。ちょっと寝不足でよろけただけだ。それよりも重いからそろそろどいてもらっていい」

そう言われて私は、今起きている状況に気づくと急に恥ずかしくなった。いつの間にか小笠原さんの胸の上に倒れこんでいたのだ。だから痛くなかったのだとすぐに理解した私は慌てて体を起こした。

「ご、ご、ごめんなさい!」

「いや、ケガしてないならいいよ。俺、疲れているみたいだからもう寝るね。おやすみ」

「……おやすみなさい」

小笠原さんが部屋に入った途端、ハァ─と息を吐いた。もしかして小笠原さん、咄嗟にかばってくれた?

は、ははぁ─、そんなわけないか。
そう思いつつも自分の顔が火照っている。そう言えば小笠原さんも顔が少し赤かったような。
それに手を掴んだ時も……

気になることは色々あるけど、同居ってどこまで相手に踏み入れて良いものだろうかと今更ながらに最近思う。この関係性は友達でも恋人でもなく、ただの同居人で漫画家と編集者で……

とても難しい。

私は小笠原さんに違和感を感じつつも、朝起きると小笠原さんは既に出張に出かけた後だった。
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