【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
しばらくして山田さんがトイレから戻ってきた。何だか嬉しそうな顔をしている。たぶん、いやきっと晴をおぶっていけるからだと思う。こんなに分かりやすいのに肝心の晴には伝わらないのが不思議だ。
──でも山田さん。告白とか煽っておいて何なんですが、小笠原さん呼んでしまいました。スミマセン!
「じゃあ麻希ちゃん。俺、はるちゃんおぶって行くから。とりあえず今日は麻希ちゃんの家に運んで……」
「山田さん、ごめんなさい。さっきちょうど晴のスマホに小笠原さんから電話がかかってきて、状況を話したらすぐ迎えに来てくれるみたいで」
私は咄嗟に嘘をついてしまった。
山田さんのことは応援しているけど、何より晴の気持ちを優先にしてあげたかったのだ。そんな気持ちから山田さんに対して少し後ろめたさを感じた。
「……あ─、そっかぁ」
明らかに落胆している山田さんを見てちょっと心が痛くなったその時、店員の大きい「いらっしゃいませ─」と言う声と共に「あ、小笠原さん」と山田さんが声を漏らした。
振り向いた先には息を切らしながらこちらを見ているイケメンが一人。
──あれが小笠原さんか。
「悪い、山田。片桐さんが迷惑かけたみたいで。今連れて帰るから。……ほら片桐さん起きて、帰るよ」
「ん──……あれぇ小笠原しゃんがなぜここに──?」
「いいから。ほら背中に乗って」
そう言って晴を自分の背中に乗せようとした時、山田さんが急に席を立ち上がったのだ。
「あの!やっぱり俺がはるちゃん運びます!小笠原さんもまだ病み上がりだしその方が……」
「いや大丈夫だ。俺が運ぶよ。どうせ帰る先は同じだから」
牽制?とも取れる小笠原さんの態度に私はニヤつきを抑えるのに必死だった。
── キャ─!なになにこの展開?もしかして男同士の嫉妬っていうやつ?晴が起きてたら漫画のネタにヨダレ垂らしそう。
「稲田さんでしたよね。先程はありがとうございます」
「あ、いえ─」
小笠原さんはそう言い残すと晴をおぶって店を後にした。山田さんは再び椅子に座ると、苦い顔をしながら黙々とお酒を飲み始めた。
──仕方ない。私の責任でもある。今日は山田さんに付き合おう。
私は山田さんを見つめながら深い溜め息をついた。