【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
山田の決意と告白


「山田さん。きっといいお父さんになりますね!」

彼女のその言葉と笑顔で俺は一気に心を持っていかれた。

この出版社に入社して6年が経つ。今まで何人もの漫画家さん達に情熱を注いできたけれど、一つ自分の心に決めていたことがある。それは女性の漫画家さんには恋愛感情を持たないこと。

そんな気持ちを持つとたぶん俺の性格からして仕事どころではなくなると思ったからだ。

そう、思っていたはずなのに……。

ある日、家族をテーマにした漫画を描く為はるちゃんと取材をすることになった。そしてその家族の子供と遊んでいた時にはるちゃんから言われたのがさっきの言葉だ。
それから俺のはるちゃんを見る目が変わってしまう。

はるちゃんと打ち合わせする時も漫画に集中できなくなってきて、このままじゃはるちゃんにも迷惑がかかると思い小笠原さんと担当を替わってもらったのだ。


『ごめん。ちょっとだけ寄りかからせて』


あの時。
小笠原さんとはるちゃんのやり取りを聞いてしまって、どうしようもない感情が溢れてきそうになった。

自分は何をやっているんだろう……いや、なんで何もしていないんだ?

俺ははるちゃんを見つめているだけで、まだ何も伝えていないじゃないか。それに今回の小笠原さんの件だって。

だから、小笠原さんとはるちゃんとの会話を聞いたとき決意したんだ。


──はるちゃんを誰にも取られたくない!


そう思った俺の行動は早かった。自分でもこんなに早く行動に移せたことに驚いた。

早速はるちゃんとの約束を取り付けて、夜景の綺麗なレストランを予約して、花束を用意して……って。

まだ付き合ってもいないのにプロポーズでもする勢いのシチュエーションに俺は後で気づいた。

──いや。もう心は決まっているんだ。この際“結婚を前提に……”とでも言ってしまおうか? ……まて、それはさすがにはるちゃんも引いてしまうのではないか。

などと考えていると今日は全く仕事に身が入らない。それよりも俺にはまずやらなくちゃいけないことがあるだろう。

俺は昼休憩の時に誰も来ない会議室へ小笠原さんを呼び出していたのだ。
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