【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
自分の気持ち(拓実version)


今日は山田に会議室へ来るよう呼ばれている。

正直、山田には大人げないところばかり見せてしまったから一度ちゃんと謝ろうと思っていたところだ。
ちょうど良い機会ではあったけれど、山田に呼ばれた理由が思いあたらない。

その理由を悶々と考えながら、会議室へ入った俺は「山田、いる?」と一声かけた。
……が、まさか呼び出された理由がこの話しだとは少しも想像していなかった。

山田に告白されたのだ。

いや、俺にじゃなく山田が片桐さんを好きだという話しだ。突然、告白され俺も驚いてどう答えていいかわからない。

よくよく聞けば山田は俺と片桐さんの同居に反対らしい。まぁ、当たり前といえば当たり前か。好きな女性が別の男と住んでいるのだ。いい気はしないだろう。

「あ─……山田は片桐さんと付き合っているの?」

俺のその問いに対して、付き合っていないという山田の言葉に安堵したが、直ぐ様安堵した気持ちが不安に変わっていった。
今は付き合っていなくても、片桐さんももしかしたら山田のことが好きでこれから付き合うかもしれないじゃないか。

「俺の気持ちを伝えようと思ってます」

山田のその真剣さに俺はわかったとしか言えなかった。でも冷静にそう言ったつもりが、心の中では嫉妬というドロドロしたものがものすごい勢いで渦巻いていく。

俺だって本当は自分の気持ちに気づき始めているんだ。いつも真っ直ぐに向かってくる片桐さんのことが、いつの間にか気になる存在になっている。

でもこれは果たして恋愛というくくりなのだろうか。何度かそう自分に自問自答していた。でもそんなことを考えている時点で俺は恋愛に少し臆病になっているのかもしれない。

けれど、あの片桐さんの可愛い格好だって……山田に一番に見せていたから大人げなく嫉妬してしまった。原に関しては片桐さんを触らせたくもない。欄外だ!

今になってようやく、この気持ちはもう紛れもなく片桐さんが好きだという証なのだと思った。

そしてそう確信し始めた辺りから仕事に集中できなくなっていって……そのザマがあの作家への確認ミスだ。

それに段々と自分の心にブレーキが効かなくなってあの疲れきっていた日に、俺はつい片桐さんに甘えてしまった。

正直、香菜とあんなことがあったのに、またすぐ自分がこんな気持ちになるとは思ってもいなかった。片桐さんが香菜への気持ちを少しずつ癒してくれたんだと思う。

そう思っていた時、スマホの着信音が鳴った。

それは香菜からの着信だった。

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