【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?


遊園地取材の日はまさしく俺のブレーキが効かなくなっていた。

先日、突然香菜と連絡が取れて以来、香菜とは一回逢って話しをしたのだ。香菜の話しを聞いて最初は驚いて怒りもあったが、思っていたよりも冷静に聞けている自分がいた。それに兄さんのことも……

それよりも俺の中では山田と片桐さんがどうなったのかが気が気じゃなかった。
この短期間で香菜への気持ちが薄れていったのは、片桐さんが側にいたから。

俺は少しだけ微笑みながら不思議なもんだと思った。あんなに香菜のことで悩んでいたのに、今は片桐さんのことでこんなに悩んでいる。人の気持ちはなんと移りやすいものか。

けれど、俺は片桐さんのあの言葉でまた不機嫌になってしまった。

「小笠原さん。私、実は先日山田さんに告白されちゃいまして。全然気づかなかったんですけど、私ってまんざらでもないんだな─って」

あぁ……やっぱり山田と付き合うことになったのか? そうだとしたらこの同居はすぐ解消しないといけない。……けれど俺はなかなか踏ん切りがつかなかった。

このまま出来たら片桐さんと一緒にいたいというずるい気持ちが勝っているのだ。

観覧車ではもう自分の気持ちに歯止めが効かなくなって我を忘れた。
怖さに固まっている片桐さんの態度や言葉の端々がとても可愛いく感じて……ジッと俺を見つめてくる片桐さんに

「……ん─、じゃあさ……今だけずっと俺のこと見てたらいいんじゃない?」

そう言ってキスをしてしまったのだ。
あぁ──俺は何を言っているんだ!今思い出しても恥ずかしい……

でも……もう自分の気持ちが押さえられなかった。
あの時、観覧車が揺れなければ俺はもっと先のことまでしちゃっていたかもしれない。

これ以上、片桐さんと一緒にいては自分が何をするかわからないと思った。山田と付き合うのなら尚更だ。片桐さんには俺への気持ちはないのだから……。

「片桐さん、同居は解消……しようか」

その言葉を出来るだけ言いたくはなかった。それに片桐さんとはこれからも漫画家と編集者の関係だ。片桐さんにキスのことを気にしないように言ったつもりだった。

「ごめん。今のは……特に意味はないから。だから忘れて」

今思うと勝手な言い分だ。
……でも片桐さんもあっさりと同居解消を受け入れたのには少し拍子抜けした。もっとごねてほしかったのかもしれない。……ハァ─、本当に勝手な話しだな。

これから片桐さんは山田とでも住むのだろうか?

自分で同居解消を言っておいて落ち込むなんて、女々しすぎるヤバい奴だ。

俺は大きな溜め息をついた。

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