【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?


「それは、だって。わた、私は……」

── も─やだ……また涙が出てきそう

私が言葉に詰まっていると突然、“パチンッ”と手を叩く音が響いた。
私と小笠原さんが同時に音が鳴った方へ目を向けると、原社長が叩いた手を合わせたまま私達を見ていた。

「な─んか二人の世界に入っちゃって僕、蚊帳の外じゃな─い。正直、僕のこと忘れてたでしょ?」

「そうだ! 原、お前なんで片桐さんを勝手に連れてきてるんだよ。何もしてないだろうな?!」

「拓実くんにとやかく言われる筋合いないと思うんだけどな─。僕はただ泣いていた晴さんをなぐさめていただけ……まぁ、口説きもしたけど。って言うか拓実くん気づいてる?」

「何がだ!」

「さっきからずっと片桐さん(・・・・)って呼んでるよ」

そう言われてやっと気づいた小笠原さんは咄嗟に口元を手で押さえ、目が泳ぎまくっていた。

「い、いや……あのこれは、え─とただ俺が間違えただけで……」

慌てふためく小笠原さんに対して、原社長はプハッと堪えていた笑いを吹き出す。
なんで笑っているのか状況を掴めていない小笠原さんに、私は急いで原社長が既に私達の事情を知っていることを伝えた。

するとそれを聞いた瞬間、小笠原さんは力が抜けたようにその場にしゃがみこんでしまったのだ。

「拓実くんのそんな慌てた姿、初めて見たかも。……うん!貴重なところ見られたから、今回だけは知らなかったことにしてあげるよ。拓実くん一回貸しだね」

頭をクシャクシャにしながら原社長のほうを見上げた小笠原さんは、大きな溜め息をつくと「わかった」とだけ小さく呟いた。

「それより、さぁさぁ! 僕、明日も早いんだから二人ともそろそろ出ていってくれないかな」

また強引に私と小笠原さんの手を取り、グイグイと玄関の外に追いやった。
そしてドアを閉める時に原社長が一言だけ付け加えてくる。

「晴さん。僕、漫画も恋人の件も諦めたわけじゃないからよろしくね」

「……恋人?」
そう呟いた小笠原さんは、勢いよく私のほうを振り向いてきたのである。
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