【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
エピローグ

今日は朝から落ち着かない。
この常に不安にかられている感覚は慣れるものではないのかもしれない。

「拓実くん! 拓実くんならもう結果知ってるんだよね?」

私はのんびり珈琲を飲んでいる拓実くんに詰め寄った。拓実くんは溜め息を一つ吐いた後、静かに首を横に振ったのだ。

「俺ももう漫画部門にはいないから結果は知らないんだ。……晴、少し落ち着いたら。珈琲でも飲む?」

そう言った拓実くんは自分の分をおかわりするついでに、私の珈琲も一緒に入れようとキッチンへ向かう。

このやり取りでお気づきでしょうか。
今日は私が応募した漫画コンテストの結果が発表される日。

あの創立記念パーティーから半年が経過し、私と拓実くんは漫画家と編集担当者の関係を解消。拓実くんは社長になってから忙しい日々を送っている。

私はと言うと……編集担当者が女性に代わり相変わらず漫画を描き続ける日々を送っている。

けれど違うことがもう二つ……

私と拓実くんはあれから入籍し恋人同士から奥様と旦那様という関係に。……それと。

その瞬間、私のスマホが鳴り響いた。
私は直ぐ様電話を取り、かかってきた内容を確認すると静かに通話ボタンを切った。

立ち尽くす私に拓実くんは恐る恐る聞いてきた。

「……晴? 編集者……からか?」

「うん……、あのね、私の作品……受賞は逃しちゃったんだけどね、編集担当者がもう少し手直しすれば雑誌に取り上げてくれるチャンスがあるかもしれないって……」

「そっか……でも、まだチャンスはあるんだし晴なら大丈夫だよ!」

そう励ましてくれた拓実くんに私は笑顔で答えた。

「そうだね。掲載されるチャンスがまだあるんだもん!もう一踏ん張りだね!──……あ─でも、大賞でも取れてたら拓実くんにW(ダブル)でおめでたい報告ができたのにな─……」

W(ダブル)?」

拓実くんは入れ終えた珈琲カップを持ちながら私に聞いてくる。

私は椅子に座った拓実くんに後ろから抱きつき、耳元でそっと囁いた。

「お腹の中の赤ちゃん……二ヶ月だって」

その言葉を聞いた拓実くんは勢いよく私の方へ振り返り、目を丸くして口をパクパクしながら驚いている。
そして最高の笑顔と共に私を力強く抱き締めたのだ。

「やった─!……あ!あ、ごめん、力強かったよな……お腹大丈夫か?!」

「そのぐらいじゃ平気だよ─、()()

パパと言う言葉に拓実くんの顔は更に緩んで、今度は優しく私を抱き締めた。

「ありがとう……晴」

「拓実くん……ありがとう」


私達はこれからもずっと、お互いの……ううん、三人の体温を感じ合う幸せを抱き続けていくんだ。




《完》


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