【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
番外編

弟くんのひとりごと


転勤の辞令がありアメリカに渡ってから半月ほど経ったある日、俺のスマホに通知がきた。

姉ちゃんがどうやらインムタグラムを始めたらしい。俺のアカウントにフォローされたという通知が届いたのだ。

メッセージではたまに姉ちゃんと連絡取り合っていたけれど、まさかあの姉ちゃんがインムタグラムを始めるとは……。

機械オンチとでも言えばいいだろうか。昔から、機械はもとよりアプリなども必要最低限なものしか入れていない。
それも俺がいないのに……誰に教わっているんだ?

俺はなぜか無性に気になり出して、姉ちゃんの親友である麻希さんにメッセージをしてみた。麻希さんはとてもサバサバしていて姉ちゃんとは仲がいい。
けど怒らすととても怖いのだ。

『麻希さん。突然スミマセン。最近姉ちゃんに変わったことってありませんでした?』

すぐに既読になり麻希さんから返事が返ってきた。

『特にないけど。あ─でも、今ちょっと微妙な感じかな』

微妙? 微妙な感じってなにが!?
俺は直ぐ様、返事を入れた。

『微妙って何ですか? 姉ちゃんに何かあったんですか』

『いやいや、別に悪いことじゃないから気にするな。すこ─し晴にモテ期がきているだけ🖤』

え、モテ期…………ハァ─?! あの姉ちゃんがモテているってことか?

『そこのところもうちょっと詳しく教えて下さい!』

『弟くんよ。干渉し過ぎるシスコンは女子にモテないぞ─』

グッ……俺は別にシスコンじゃねぇし!
ただ家族として心配してるんだ。姉ちゃんは全く姉ちゃんらしくないし、何かとお節介やきだし、おっちょこちょいだし酒飲みだし……それに。

俺の母親代わりでもある。

俺達の両親は父さんが小さいときに事故で、その後女手一つで育ててくれた母さんも俺が高校一年の時に病気で他界した。

それからは、ばあちゃんが引き取って三人暮らしだったけど、俺が大学に行けたのは正直姉ちゃんが高校卒業して働いてくれたからだ。

絵本作家だった父さんに似たのか、姉ちゃんは小さい頃から絵を描くのが好きで、漫画家になるのが夢だった。
……けど、俺の学費を少しでも稼ぐ為、漫画家になる夢は一旦封じ俺が大学入学するまで働いてくれた。

まぁ、俺も成績良かったし奨学金で何とか入学できたから、姉ちゃんもその後はまた漫画家になるべく色んなコンテストに応募しまくった。

だから姉ちゃんが結婚するまでは、ダメな男に引っ掛からないよう俺が側で見てなくちゃいけないのに……よりにもよって海外転勤なんて。
それに姉ちゃんもなんか隠してるっぽいし。

“ピロンッ”

麻希さんにまたメッセージを送ろうとした時スマホの着信音が鳴った。画面を覗いてみると、姉ちゃんのインムタグラムが更新されたという着信音だった。
その投稿された写真には姉ちゃんが漫画を描いて机に向かっている姿が写っている。もちろん顔は伏せていて写ってはいないが。

「なんだ。元気に漫画描いているみたいで良かった。……ん? でもあれ……じゃあこの写真は誰が撮ったんだ? それにこの写っている影は誰?」

俺はすぐ姉ちゃんに電話をしたが話し中になっている。

麻希さんか? それとも男……彼氏?

そして姉ちゃんから電話が返ってくるまでずっと悶々としていた自分に、さっきの麻希さんの言葉が引っ掛かった。

『干渉し過ぎるシスコンは女子にモテないぞ─』

断じて俺はシスコンじゃない!


──まだ慣れぬニューヨークの地で、一人鼻息を荒くしながら、力強く麻希の言葉を否定した弟くんのひとりごとでした。──



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