童話書店の夢みるソーネチカ
 きまりが悪そうにくせっ毛の頭をかきながら、柳木は唸るように答えた。

「ゆかは俺の高校時代の恩師の子どもなんだ。客さん用の机だし他の子が真似して店に来ても困るから断るべきなんだがな。本当にあの教師の子どもかって疑うぐらいにできた子で。拒否すんのも気が引けてたまに勉強スペースとして使わせてやってる」

 ゆかと言う名の折り目正しい少女は、オーク材の丸形スツールに座り、ランドセルからノートを取り出していた。

 柳木は、語感からして恩師の娘だからというよりも彼女の清廉な雰囲気に圧倒され、むげにできないんだろう。遠慮のないやんちゃな子どもなら容赦なく外に放りだしていそうだ。

 それにしても、恩師という割には敬いが足りてないような気がする。

 柳木が人間に対して毒のある物言いをするのは珍しかった。決まってそれは彼にとって気の知れる間柄の人たちばかりだ。

 ゆかの母親であるというその教師について、千花は質問せずにはいられなかった。

「その先生ってどんな方なんですか?柳木さんやっぱり高校生の頃やんちゃしてて、その人に怒られてたとか」

「やっぱりってなんだよ。むしろ逆。俺は在学中、生徒会をしていた時期があった。その時の生徒会担当教諭が先生、朝野美保だった」

 生徒会……。学ラン姿の柳木が脳内に浮かぶ。と同時に、一九八〇年代のような長ランにボンタンを穿いた柳木を生成してしまい吹き出しそうになる。

 毅然とした代表生徒を思い浮かべるはずだったのに……顔と態度が想像を捻じ曲げてくる。

 すぐに頬を引き締めたがバッチリ見られていたらしい。なんだと睨まれた。
< 7 / 33 >

この作品をシェア

pagetop