童話書店の夢みるソーネチカ
「生徒会なんて窮屈な仕事を担当してんのに、先生はノリと勢いで仕事してるようなもんだった。おかげで生徒会自体は明るい環境だったし、生徒の代表として気を張ることもなかった。ただ先生のずぼらが俺らを苦しめることの方が多かったな。卒業式に使う垂れ幕製作用の資材を発注し忘れてた時はさすがに怒った」

 豪快な人だ。柳木さんを振り回すなんてただものじゃない。

 柳木は本棚の整理をしながら言葉をつづけた。

「あとは負けず嫌いだったな。体育教師だったし、そういう性なのかもしれねえが。モットーなんて『目には目を、歯には歯を』だ。やられたらやり返す、意地には意地で対抗だ!って言って」

 顔も見たことがないのに、朝野美保が鮮明に思い浮かぶようだった。

 話を聞けば聞くほど、ゆかとは似ても似つかない。柳木の反応も当然のように感じた。

「俺は高校生の頃からゆかの自慢話を聞かされてた。そんときはゆかも二歳か三歳で、写真を見せてもらったがお世辞なしで可愛かったな。そのままに成長して、今そこで勉強してんだから感慨深いもんがあるよな」

「なんだかおじさんっぽいですね」

「ほっとけ」

 思い出話をしていると、後ろで扉の開く音が聞こえた。

 まずい。長話をしたせいで千花は学校指定の紺のセーラー服のままだった。柳木に目配せされ、急いでバックヤードの更衣室に駆け込む。
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