雷鳴に閉じ込められて
今から三百年前の日本、多くの武士たちが生きていた時代だ。武士の家系に生まれた男児は武士となり、女児は良家に嫁ぐ。それが当たり前の時代だった。

江戸にある大きな平家の家、武士である父と良家の娘である母の間に萌黄(もえぎ)は生まれた。彼女の上には二人の兄がおり、待望の女の子だった。

萌黄が物心ついた頃から、二人の兄は父から剣術を教えてもらっており、広い庭で父から稽古を受けていた。

「あたしもやりたい!」

剣を動かす様子がかっこよく見え、萌黄は両親に何度もせがんだ。だが、二人が首を縦に振ることはなかった。

「萌黄は女の子なんだから、剣なんかよりも礼儀作法を学びなさい」

そう返され、萌黄は興味など微塵もない華道や茶道などをさせられた。年頃になればいい家に嫁ぐという役割があるからだ。しかしーーー。

「やあッ!」

「とうッ!」

刀を手にし、稽古をする二人の兄を見ていると、剣術を学びたいという気持ちが心の奥底から溢れてくる。もう十六歳でそろそろ縁談がやってくるというのに、萌黄は気持ちを止めることができなかった。
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