さくらの結婚
 布団から顔を出して不安そうにこっちを見上げるさくらと視線が合う。
 胸が塞がるような想いに駆られる。

 どうしてさくらはこんなにも不安気な瞳を向けるのだろう。
 僕の事を父親以上に想っているからなのか?

「子どもに戻ったのか?」
「うん。一郎がいないとダメなの」

 素直に甘えてくるさくらが可愛い。
 元の場所に腰を下ろし、熱い手を握った。 

 さくらが安心するように弱々しく笑い、目を閉じた。
 さくらの寝顔を見ながら同じような事が真由美の葬儀の後にもあった事を思い出した。
 
 喪服を着たまま一晩中さくらと手をつないだ。
 12才の小さなさくらの手を握りながら、血のつながりがなくても父親としてさくらを守って行こうと決めた。
 
 真由美の両親からは大反対されたが、さくらはかけがえのない僕の家族になっていたから、離れて暮らす事は考えられなかった。
 寂しくて悲しい夜も、さくらがいてくれたから真由美の死を乗り越えられた。
 
 今もさくらの側にいられて幸せだ。
 出来る事なら一生さくらの側にいたい。そんな事を言ったら、子離れが出来ないね、とさくらに呆れられるかもしれないが。

「出来るだけそばにいさせてくれよ」

 心の内側で口にし、願をかけるようにさくらの頭を撫で続けた。
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