さくらの結婚

ブライダルフェア

 風邪が治ってからのさくらは何だか忙しく、勤め先のホテルに泊まる事が増えた。もう五日さくらの顔を見ていない。ブライダルフェアの準備とかで大変なようだ。  

 結局僕は、さくらの告白の真意を聞く事が出来ずにいた。その事にさくらは全く触れて来ない。そんな話が出来る程顔も合わせられてないが。  

 五日ぶりに帰って来たさくらは、明日のブライダルフェアに来て欲しいと言い出した。

「お父さんに是非、見てもらいたいの」  

 不意に言われてマグカップを持つ手が震えた。  

 ――お父さん。
 
 初めてさくらにそう呼ばれた。

 まじまじとさくらを見ると、

「これからはそう呼ぶ」と言われた。  

 出会った時からさくらには一郎と呼ばれ続けていた。
 無理にお父さんなんて呼んで欲しくなかった僕は、さくらの好きなように呼ばせていた。

 ようやく僕も父として認められたのか。長かったと思いながら、急にさくらが遠くに行ってしまったようで寂しくなる。

「絶対に来てよ。お父さん」  

 念を押すようにさくらに言われた。
 お父さんの一言に、すっかり告白の事を聞く気力を失った。
< 16 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop