妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「凛風」


 熱っぽい声音。掛布が剥がれ、心臓が勢いよく跳ねた。
 唇に甘い熱。小さなリップ音が響き、脳みそが揺れる。

 頬や額に絶え間なく降り注ぐ憂炎の口付け。くすぐったくて、熱くて堪らない。
 獲物を前にした獣みたいな瞳。堅強な檻。全身を焦がすような強い欲を感じる。


「――――憂炎」

「なんだ?」


 身を捩っても止めてくれる気配なんてちっともない。思わずため息が漏れた。


「わたしは――――お前が思うより、ずっと弱い女なんだぞ」


 言葉にした後で、思わず目を見開いた。


(何言ってるんだ、わたし)


 こんなことが伝えたかったはずじゃない。ただ『止めろ』と――――そう言いたかった筈だ。


(自分で弱い宣言するとか、一体どんなアピールだよ)


 憂炎だって驚いてるし、何だか物凄く恥ずかしい。


「ごめん、やっぱ今の無し」


 そう言って掛布を手繰り寄せると、急いで己を覆い隠す。顔を見られたくない。頬が熱を持ち、情けない表情をしている自覚があった。


「凛風」


 だけど、憂炎は許してくれなかった。再び掛布を剥ぎ取り、内に炎を宿した紅い瞳で、真っ直ぐにわたしを見つめてくる。しっかりと絡められた指。間近に迫る熱に、心まで丸裸にされたような気分だ。


「おまえが弱いことは知っている。強さなんて求めてない。ただ俺はおまえに――――凛風に側にいてほしい」


 額がコツンと重ねられる。何でだろう。理由もなく涙が滲んできた。


「凛風」


 憂炎はほんの数ミリ離れた位置で静止し、じっとわたしのことを見つめていた。近すぎて彼の感情は読み取れない。けれど、望んでいることなら何となくわかる。


(なんで涙が止まらないんだろう)


 少しわかったと思うと、また遠ざかっていく。
 憂炎の気持ちも。わたしの気持ちも。全然全然理解できない。


(でも今は)


 そっと首を伸ばして、憂炎に触れるだけのキスをする。その途端、それじゃ足りないとばかりに唇を強く吸われ、割り入られ、深く絡められた。

 まるで宝物を扱うかのように、優しく、温かく、慈しむかのような触れ合い。『華凛』を可愛がる時みたいに表面的な感じじゃなくて、もっと心の奥に訴えかけるような――――。


「凛風、俺以外のことは考えるな」


 思考が完全に停止する。何も――――憂炎のこと以外、考えられなくなる。
 胸を抉るような暴力的な熱に、わたしは今夜も翻弄されるのだった。
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