妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
 それに、憂炎はとにかく女にモテる。整った顔をしているし、優秀だから当然だろう。
 だけど奴は、誰にも興味を示さなかった。どんな美女から声を掛けられても、眉一つ動かすことなく無視をする。何なら女性という生き物を恨んでいるんじゃないかって思う程だった。

 そりゃあ、皇太子になった以上、お世継ぎは必須で、そのためには妃が要るっていうのは分かる。

 だけど『身近な女性を選びたい』なんて理由なら、華凛の方を選んで欲しかった。
 だってあいつ、華凛のことは、目に入れても痛くないほど可愛がっているんだもの。わたしに対する態度とは大違い。あんな不機嫌な顔をするぐらいなら、最初に勧めた通り、華凛の方を選べば良かったんだ。


(もしかして、大事過ぎて手が出せない、とか?)


 憂炎は強い男だ。華凛みたいなか弱い女を相手に、己の欲をぶつけてはいけないと思ったのかもしれない。触れれば壊れそうな、繊細な見た目をした妹だ。そう思うのも無理はない。
 その点わたしは丈夫だし、ちょっとやそっとのことじゃ傷つかない――――きっと、そんな風に思ったのだろう。


(バカな奴)


 華凛だってちょっとやそっとのことじゃ傷つかない。妹は案外強かな女だ。憂炎を受け止められるぐらいの度量は持っている。何しろ、本人が憂炎の妃になることを望んでいるのだから、これ以上のことは無い。


(早く――――全てをあるべき形に戻せたら良いのに)


 妃として手が付いた以上、『凛風』が後宮を出ることは難しいかもしれない。
 それでも、妹である『華凛』を妃にすることは不可能では無いだろう。憂炎が強く望めば道はある。

 第一、わたしたち姉妹の入れ替わりさえ成立すれば、『凛風』と憂炎の離縁が成立しなくても問題はない。多少の不自由はあれど、長い時間をかけて『華凛』という人間をわたし色に塗り替えていけば良いことだ。


「――――寝ないのか?」

「……え?」


 いつから起きていたのだろう。憂炎がこちらをガン見していた。
 眉間に皺を寄せ、唇を尖らせ、いかにも不服そうな表情を浮かべている。


「寝るに決まってるだろ。もう疲れたし」


 急いで目を瞑りながら、掛布を思い切りひっかぶった。それなのに、布越しになおも感じる粘着質な視線。全身嫌な汗が流れ始める。
< 32 / 74 >

この作品をシェア

pagetop