妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「良いお話ではございませんか。妃になれるだなんて、またとない機会ですわ。お父様もお喜びになるでしょうし」


 華凛はそう言って朗らかに微笑んだ。ウットリとした表情。本気でそう思っているらしいことがよく分かる。


「冗談……わたしにとっては最悪の話よ。
だって、妃になったら外に出られなくなるんでしょう? 後宮で飼い殺しになるなんて――――自由がないなんて嫌。煌びやかな衣装も妃の身分も、何一つ欲しいとは思わないし」


 答えながら、本日何度目になるか分からないため息を吐く。

 後宮の妃たちがどんな生活を送っているのかわたしは知らない。だけど、窮屈でドロドロした場所だろうってことは容易に想像が出来た。


(考えてみると、生まれたばかりの皇子が命を狙われるなんて異常だよな)


 殺されないよう、十八年近くもの間身を隠さなければならない――――そんな場所が夢溢れる楽しい場所である筈がない。

 第一、我が国は一夫多妻制で、現皇帝には百を超える妃がいる。世継ぎを効率よく残す必要があるからだ。


(それなのに皇子が憂炎一人しかいないってのが何とも皮肉な話だけど)


 とはいえ、その慣例は憂炎にだって斉しく引き継がれる。奴はこれから何十人もの妃を迎え入れる筈だ。だったらわたしが妃になる必要は無い。きっぱり断ったんだし、切り替えて他を当たれば良い話だ。


「まぁ……欲がない。女の頂点に立てるかもしれませんのよ? 自由がないぐらい、なんてことないじゃありませんか」


 華凛はそう言って首を傾げた。瞳が野心に輝いている。わたしは華凛のことを見つめつつ、ゆっくりと前に躍り出る。


「――――そう思うなら、わたしと入れ替わって。わたしには本気で無理。憂炎とどうこうとか、考えたくもない」

「お安い御用ですわ」


 華凛はそう言ってニコリと笑った。その瞳は楽し気に細められ、一切の迷いがない。


「わたくしが憂炎の妃として後宮に入りましょう」


 華凛の言葉に、わたしはゆっくりと口角を上げた。
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