妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~

2.凛風の入内

(まさか本当に実現するとはなぁ)


 妹の部屋に一人寝そべりながら、わたしは小さくため息を吐く。
 つい先ほど、妹の華凛は花嫁装束に身を包み後宮へと出発した。華凛ではなく凛風として。
 それと同時に、わたしは凛風ではなく華凛となった。


(しかし落ち着かないなぁ)


 華凛の部屋の調度品は、どれも薄紅色を基調にしていて、何とも可愛らしいがしっくりこない。わたしはもっと、ハッキリした色合いが好みだ。


(少しずつ部屋の中身を入れ替えよう)


 すぐに事を成せば、侍女や父様から怪しまれてしまう。全てを入れ替えるには数年間かかるだろうが、このぐらいの苦労は致し方ない。
 だって、わたしは――――わたしたち姉妹は――――互いの人生を入れ替えることにしたんだから。



「失礼します、お嬢様」

「あら、紀柳」


 わたしは急いで居住まいを正すと、華凛の侍女に向かって微笑んだ。


「そろそろお茶のお時間かと思いまして」

「そうね……ありがとう。準備をお願いできる?」


 表情の変化に乏しい侍女はわたしの返事に頷くと、またすぐにいなくなる。思わずため息が漏れた。


(危ない危ない、ボロを出さないようにしないと)


 華凛の考え方、喋り方はしっかりと頭と身体にインプットされている。だけど、意識していないと、凛風としての自分を周囲に見せてしまいかねない。


(わたしたちが犯しているのは大罪。それを自覚しなければ)


 身内にだって本当のことを知られてはいけない。これはわたしと華凛、二人だけの秘密。

 華凛が凛風として、憂炎の後宮に入り、わたしは華凛として生きていく――――それが、わたしたちが決めた生き方だった。
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