妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「元々表情豊かな方だとは思いますが、凛風さまのことになると喜怒哀楽が顕著になります。例えば、お二人が初夜を迎えられた朝などは、あまりにも嬉しそうに――――――」

(待って、待って待って! そういうの聞きたくない~~~~~~~!)


 わたしは堪らず耳を塞いだ。
 初夜とか!お願いだから!涼しい顔してそんなこと言わないで!


(っていうか憂炎の奴、なんでバレてんの⁉ 監視役は仕方ないとしてもさ。普通隠すでしょ!)


 チラリと横目で見遣れば、白龍は無表情のまま、何やら語り続けていた。淡々とした口調。中身まで聞かないようにしているけど、朝からする会話の内容じゃないことだけは、何となく伝わってくる。


「その件については十分すぎるぐらい分かりましたわ!」


 これ以上こんな会話が続いたら身がもたないので、わたしは必死に白龍を止める。


「でも白龍。憂炎が怒っていたのが姉さまのせいだとしたら、何故わたくしに怒りをぶつけたのでしょう? 二人は喧嘩でもしたのでしょうか?」


 正直言って、華凛が憂炎と喧嘩をするとは思えない。面倒事を避けるタイプだもん。喧嘩に発展する前に手を打っているに違いない。


「それは俺には分かりません。ただ――――」


 白龍はそう言って目を伏せた。


「俺が仕え始めてすぐの頃にも一度、主があんな風に憤っているのを見ました。ちょうど、凛風さまが入内した頃です」

「まあ。そうでしたの?」


 相槌を打ちながら、わたしは小さくため息を吐く。


(じゃあ、やっぱり憂炎と華凛の間に何かあったのかな?)


 わたしが知らないだけ。これからも分からないまま。でも、それで良い。
 今後はきっと、華凛がうまくやってくれる。

 だからわたしが立ち入るのはここまでにしよう。もう二度と、憂炎に振り回されないって決めたんだもの――――。


「あっ、華凛ちゃん!」


 その時、数人の男性がわたしの元に駆け寄ってきた。
 鍛錬された逞しい身体に日に焼けた肌。どうやら彼等は武官らしい。
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