妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
 必死に押し留めようとしたのに、憂炎はわたしの手を掴み、指先を絡めて繋ぎとめる。
 イヤイヤと首を横に振っても、ちっとも止めてくれなくて、何度も何度も唇を吸われた。

 このまま心臓を奪い取られるんじゃないかって位に、深く口づけられて、息もまともに吸えなくて。顔なんか涙でぐちゃぐちゃで。

 このまま死んだ方が良いんじゃないかってぐらい悲しくて。
 その癖、心の奥底で『嬉しい』って思っている自分が居る。


 あぁ、わたしは。
 わたしは本当はずっと。


(憂炎のことが好きだったんだ)


 胸が張り裂けそうに痛かった。喉から手が出そうな程、身体中の血液が沸騰するほど、全身が憂炎を求めていた。

 だから、憂炎には『凛風』を好きでいてほしかった。『凛風』だけを好きでいてほしかった。

 だけど『凛風』はもう、わたしじゃない。

 これ以上、憂炎と『凛風』を見ていたくなかった。
 華凛から想いを受け取って、幸せになってほしい――――そう思うのと同じぐらい、憂炎にはわたしだけを想っていてほしい――――そんな、矛盾した醜い感情を抱いていた。

 だから今、こうしてわたし――――『華凛』を求める憂炎が悲しくて、嬉しくて、最早どうしようもない。


 ようやく唇が解放されて、憂炎がわたしの頬をそっと撫でる。


「凛――――」


 その瞬間、わたしは憂炎の頬を思い切り叩いた。室内に響く大きな音。手のひらがめちゃくちゃヒリヒリして、熱くて痛い。
 涙が止め処なく流れて、わたしの頬と憂炎の手のひらを濡らす。


「憂炎のバカ!」


 不敬なんてレベルじゃ済まされないって分かってる。だけど、わたしは自分を止めることが出来なかった。


「憂炎なんて大っ嫌い!」


 それは本当で、嘘だ。
 大っ嫌いだと思う以上に、本当は憂炎が好きで堪らない。だけど、これ以上自分に嘘は吐けそうにない。


(今度こそさよならだ、憂炎)


 憂炎の手を振りほどき、わたしは部屋の入口へと走った。

 けれどその時、ほんの少しだけ開いた扉の隙間から、キラリと光る何かが見えた。そうと気づいた瞬間、それは憂炎目掛けて勢いよく、真っ直ぐに飛んでくる。

 声を上げる暇なんてなかった。わたしは矢の向かう方目掛けて腕を広げた。すぐにドスッて鈍い音が聞こえて、胸の辺りがボワッと熱くなる。湿った紅い液体が胸元を汚して、ようやく鋭い痛みが走った。


「凛風!」


 憂炎の叫び声がわたしのすぐ後で聞こえる。瞳から涙が零れ落ちた。
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