妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
 華凛に『憂炎の気持ちに応えてほしい』と伝えたあの日から――――ううん、憂炎に『妃になって欲しい』と言われた日からずっと、わたしは自分の中のよく分からない感情とずっと戦い続けていた。

 憂炎の顔を見るだけで、訳も分からず苦しくて。胸が痛くなったり、身体が熱くなったり、自分でちっとも制御できない。

 それなのに会いたいだなんて――――憂炎の声が聴きたくて、笑顔が見たくて、前みたいに抱き締められたいって思ってしまう。

 あいつはわたしじゃなくても良いのに。
 自分から華凛に全てを託したのに。

 馬鹿みたいだ。自分が嫌で嫌で堪らなかった。


「おまえ自身が、結婚を望んでいるのか?」

「もちろんですわ」


 この結婚に多くを望みはしない。

 ほんの少しの自由があれば最高で、愛情なんて望まないし、他に女を作っても構わない。わたしを憂炎から引き離してくれればそれで良かった。


「許さない」

「……え?」


 気づけば憂炎はわたしの目の前にいた。眉間に深く皺を寄せ、唇を真一文字に引き結んだその表情は、怒っているのか悲しんでいるのか、よく分からない。


「俺以外の男と結婚するなんて、許すわけがないだろう」


 あまりにも身勝手な発言。怒りで胸が熱くなった。


(どうして『華凛』になってまで、そんなこと言われないといけないんだ!)


 悔しくて、腹立たしくて、目頭がグッと熱くなる。
 もう我慢なんて出来なかった。


「許さない? どうして憂炎の許可が必要なのです⁉ わたくしはあなたにとって、ただの妹分でしょう? 妃でもなければ、恋人でもありませんもの! 指図される謂れはありませんわ!
お願いですから、わたくしのことはもう放っておいてください! 姉さまと仲良く暮らしてくだされば、わたくしはそれで――――」


 けれど、わたしの言葉は唐突に遮られた。

 さっきよりもずっと近くに憂炎の瞳が見えて、唇を温かな何かが包み込む。触れた唇、肌がジンジン疼いて、甘くて苦くて堪らない。


(どうして⁉ どうしてこんなことするんだ⁉)


 わたしは『華凛』だ。憂炎が妃にしたいのは『凛風』であって、わたしじゃない。

 『凛風』が唯一の妃だって言ったじゃない。

 あんなに好きだって。想いに応えてほしいって言ってたくせに。


(どうして『華凛』にキスなんてするの?)
< 62 / 74 >

この作品をシェア

pagetop