妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
 そうなのだ。
 あの後、わたしは父様を通して『妃の打診は凛風宛で間違いないか』再三再四確認した。けれど、憂炎は頑として譲らなかった。『妃は凛風に』の一点張りで、てんで話が通じない。


(『華凛』で良いと言ってくれたなら、こんなまどろっこしいことはせずに済んだのに)


 心の中で恨み言を呟きつつ、わたしは小さくため息を吐く。
 本当は華凛の振りなんてせず、自分らしく好きなように過ごせた方がずっと良いに決まっている。妃になるよりはマシだから、甘んじて受け入れているだけだ。


(本当に、あいつの考えていることはちっとも分からない)


 とはいえ、今後わたしが憂炎に関わることは無いだろう。

 あいつはこの広大な国の皇太子――――雲の上の人物で、わたしは一介の家臣の娘。
 既に妃として『凛風』が入内している以上、妹である『華凛』が妃として呼ばれることは恐らく無い。皇族が自由に市井を歩くのは難しかろうし、わたしたちの人生が交わることは、もう二度とないはずだ。

 けれど何故だろう。そんな風に考えると、胸の奥に小さな痛みが走る。火傷みたいにジクジクと痛むのは、最後に見た憂炎の眼差しが心に焼き付いているせいだろうか。


(いや――――これで良いんだ。誰にとっても、これが一番幸せな方法なんだから)


 小さくため息を吐きながら、今頃はまだ馬車に揺られているであろう妹に想いを馳せた。

< 8 / 74 >

この作品をシェア

pagetop