妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「姉さま! お父様のお話……正式に入内のお話が来たのですね?」

「そうよ。良かったわね、華凛」


 父様の話が終わってすぐに、わたしは華凛の元へ向かった。

 妃になることの何がそんなに魅力的なのかは分からないけど、華凛はやけに嬉しそうだった。おかげでわたしは罪悪感を覚えなくて済む。適材適所、需要と供給がマッチしているんだもの。これ以上のことは無い。


 その日から、わたしたち姉妹は入内に向けて本格的に準備を進めた。とはいえ、それは他人が思う程、大変なことではない。

 わたしたち姉妹は元々、度々入れ替わりを経験していた。父や母、侍女たち、それから憂炎の前でもそう。これまで一度だって、わたしたちの入れ替わりに気づかれたことは無い。

 お淑やかな華凛に、男勝りなわたし。だけどわたしたちは、互いの思考回路を熟知しているし、話し方や立ち居振る舞いだって自然に入れ替えることができる。

 そんなわけで、入内迄の一か月間、わたしたちは頻繁に入れ替わりながら周囲を欺き、今日という日を迎えることができたのだ。



「何やら嬉しそうですね、お嬢様」


 気が付けば、侍女の紀柳が茶器を手に目の前に腰掛けている。
 わたしはというと、ふかふかの長椅子にきちんと姿勢を正して座っていた。物思いにふけっていても、ちゃんと華凛としての振る舞いができている。これならきっと、これから先も問題ない。そう思うと、唇が自然綻んだ。


「まぁ……そんな風に見える?」

「はい。凛風様の入内が、そんなに嬉しいのですか?」

「もちろんですわ。我が一族の力も増しますし、姉さまもとっても幸せそうでしたもの。わたくしだって嬉しいに決まっていますわ」


 紀柳が淹れてくれた茶を飲みながら、わたしは優雅に微笑んで見せる。


(嘘はひとつも言ってないもんね)


 今はわたしが華凛だ。凛風に扮した妹がとても幸せそうにしていたから、わたしは嬉しい。それだけが純然たる事実だ。


「正直わたくしは……お嬢さまは『ご自分が』後宮に上がると――――そう仰ると思っていました」


 そう言って紀柳は探る様な瞳でわたしを見つめた。


(おっ……鋭いなぁ)


 さすが、幼い頃から仕えている腹心の侍女は、妹のことをよく分かっていた。じとっとした半目でわたしのことを見つめながら、紀柳はお茶を注ぎ足している。
 わたしはこういう時に華凛が浮かべるであろう表情を再現しながら、内心楽しくて仕方がない。


「だって仕方がないじゃない? 憂炎――――東宮さまが、どうしてもお姉さまが良いって言うんですもの。わたくしが手を挙げたところで拗れるだけだわ」
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