スキナダケ
夕海が自宅に帰っていったその日の夜遅く。

とっくに日付を越えていて、一時になろうとしていたと思う。

ママが帰宅した。
沢山お酒を呑んでるみたいで、今朝会った時よりもアルコールのにおいがキツかった。

ママは上機嫌で、聴いたことも無い曲の鼻歌を歌っていた。

「ハナちゃーん、起きてたのぉー?ママを待ってたの?」

しっかりしない足取りでソファに座ってたハナにもたれかかるみたいにして倒れ込んできたママは、ハナをうっとりした目で見た。

昼間の夕海の目によく似ていた。

「ハナちゃんはぁー、本当にいい男になったねぇ」

「そんなことないよ」

「そーんなことあるわよぉ。ママの子だもんっ」

ママがハナにキスをしようとしたけれど、ハナはソレを避けて、ママの手を握った。

小さい手。
いつからママの手が小さく見えるようになったんだろう。
ハナのほうがずっと小さかったのに。

「ママ、ハナを愛してる?」

「…当たり前じゃない。ハナちゃんはママの自慢の子だもん」

「ハナの顔が自慢?」

「そりゃそうよ。こんな綺麗な子、ママは見たことないわ。ママの人生でハナちゃんだけがママの自慢」

「…ママとほんとのお父さんのおかげでしょ。ハナが偉いんじゃないじゃん」

「ふっ…あはは…あんな男の顔なんて忘れたわよ。ハナちゃんが産まれた瞬間にぜーんぶ。全部忘れたの。全部捨てたの。ママはハナちゃんさえ居れば生きていけるって思ったのよ」

ママがハナの髪を撫でる。
産まれたての赤ちゃんを撫でるように。
今更、母親の顔をして。
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