スキナダケ
ママの遺体を転がしたまま、スマホを取った。

五回くらいの呼び出し音でお父さんは出てくれた。

「もしもし、お父さん?」

「おい、今何時だよ」

「…さぁ、二時半前くらい?」

「何やってんだよ。どこに居る?」

「家だよ」

「うちか?じゃあなんだ。夕海は帰ったんだろ」

お父さんの声の後ろはガヤガヤと騒がしい。
何人もの人が周りに居ることが分かった。
お父さんの声もいつもより大きかった。

「ねぇ、今どこ?帰ってこれる?」

「無理だ」

「なんで?」

「無理なもんは無理なんだよ。偉いさんとこと会合だ」

「こんな時間に?」

「あのな、世の中の偉い人はこんな時間まで自分の自由な時間なんて無いんだよ。お前らガキと違ってな」

「…ふーん。じゃあいいよ。明日まで待ってる。明日は絶対に帰ってきて。なるべく早く」

「は?お前はほんと勝手だな。なんでっ…」

「お願いね!」

お父さんの言葉を最後まで聞かずに電話を切った。

世の中のどんなに偉い人でもさすがにもっと時間は捻出出来るはずだ。
こんな時間にしか会合出来ない、お父さんの世界の偉い人達は大変だなって思った。

一晩、ママの遺体と一緒に眠った。

傍に横たわる人はもう死んでるのに全然怖くなかった。

自分が殺したからなのか、自分の親だからかなのかは分からなかった。

悲しみも後悔も沸かないことのほうが、もっともっと怖かった。
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