政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
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陛下との茶会で用意していた菓子も美味しかった。
甘さを控え、私でも食べられるようにと工夫してくれたことに心が動いた。
それにしても王族の方々に対して接している態度と言い、彼女は王族の方々に敬意は見せているが物怖じしていないのがわかる。
普通、下級貴族の者が王族に接する時などへりくだり過ぎて見ていて滑稽にさえ思える時がある。
なのに彼女の仕草は記憶を失くしていることを考えても、付け焼き刃で身につけたとは到底思えない。
こんな菓子を作る技術もどこで覚えたのか。
とにかく陛下には私たちが夫婦として上手くやっていけそうだと安心していただくことが出来た。
これも彼女がうまく立ち回ってくれたお陰だと思った。
邸に戻り再び書斎に入って彼女のことを考えた。
この邸にいる限りは心配ないだろうが、自分が砦にいる間に彼女は軍人遺族を支援したり、ベイル医師のところへ通ったりしていた。
自分がそのことについていい顔をしなかったこともあり、彼女は遠慮してそれらのことを諦めてくれるだろうか。
はたしてそれがいいことなのか。
彼女がやろうとしていることは決して悪いことではない。
侯爵夫人としては破天荒だが、やってはいけない法律はない。
むしろ無駄に音楽会や演劇などに通うより、よっぽど有益だ。
遺族への手助けも安全が確認されれば何の問題もない。
診療所の方は身分を偽らざるを得なかった理由もわかる。
自分が仕事のために彼女を構えないのに、彼女がやりたいと思うことを止める権利がある筈もない。
何より彼女の喜ぶ顔がもっとみたいと思った。
陛下との茶会の帰り際、陛下から明日もう一度一人で来るように言われ、朝から出かけることとなった。
玄関先で支度をしていると二階からクリスティアーヌが降りてきた。
紺のワンピースを着て階段を降りてくる彼女を見て、心が弾んだ。
どこへ行けば彼女は喜んでくれるだろうと考えながら、王宮へと向かった。
自分だけが呼び出されたのは、恐らくクリスティアーヌのことで、彼女に聞かせたくないことがあるのだろうとわかっていた。
「実はな……カロリーヌからの手紙はもう一通ある」
そう言って陛下が目の前に昨日、彼女に渡された手紙と同じ紙で書かれていた手紙を見せた。
「私が拝見してもよろしいのですか?」
「許す……卿には知っておいてもらいたい」
陛下から手紙を受け取り、すぐに内容を改める。
「………これは」
半分ほど読み進めておどろいて陛下を見る。黙って陛下が頷かれ、残り半分を読み終えた。
「これは……真実なのでしょうか………彼女の妄想では?」
「死を前にして錯乱していたとも考えられる。だが、虚言、妄想だと決めつけることもできない」
「これが本当なら、大変なことです」
「だからそなたに見せた。このことをクリスティアーヌは受け止められると思うか?記憶喪失のこともある。このことを知って彼女が更に追い詰められることを考えると、とても見せられなかった」
「陛下はこの話が真実だと思われますか?」
「思いたくはないが、可能性は否定できない。カロリーヌにその話を伝えた相手を探して確認する必要がある」
「陛下は既にその人物を探しておいでなのですか?」
「密かに探して、最近ようやく見つけた。どうやら一度王都から離れていたようだが、少し前に戻ってきているようだ。また行方をくらまさないように見張りをつけてある。どうする?余としてはそなたに任せたいと思っていたのだが、バーレーンのこともある。負担が過ぎるとは思うが……」
「いえ、是非私に……私の妻のことですから」
強くそう言えば、陛下が表情を和らげた。
「妻ということだけではなさそうだが……余の見立ては間違っていなかったと見える」
努めて感情を面に出さないようにしたつもりだったが、陛下にはすでに見透かされているようだ。
「ヒギンズを訪ねなさい。彼がその人物の所へ案内してくれる。まずは接触して信頼を得ることだ」
「承知いたしました」
「クリスティアーヌにこのことを伝える時期はそなたに任せる。全て裏が取れてからでも早い内でも、彼女の様子を見て決めなさい。もし真実が疑惑のとおりだったとしたなら、それを知ったあの子を支えられるのは夫であるそなただ」
「心得ましてございます。彼女にとって頼れる依り処の存在になりたいと思います」
まだ共に過ごした日にちは両手にも満たないが、彼女が側にいない自分の生活は既に想像できなくなっていた。
惜しむらくは、彼女が自分のことを自分と同じように思ってくれているのかわからないということだ。
邸に戻った日、ダレクやマリアンナが言っていた彼女の秘密について、彼女からはまだ打ち明けてくれていない。
信頼にたる存在だと彼女が思ってくれなければ打ち明けてくれないなら、いつまで待つべきなのだろう。
陛下に退室の挨拶をして、クリスティアーヌの護衛となる人物が待機する場所に向かいながら、早くその日が来ることを強く願った。
陛下との茶会で用意していた菓子も美味しかった。
甘さを控え、私でも食べられるようにと工夫してくれたことに心が動いた。
それにしても王族の方々に対して接している態度と言い、彼女は王族の方々に敬意は見せているが物怖じしていないのがわかる。
普通、下級貴族の者が王族に接する時などへりくだり過ぎて見ていて滑稽にさえ思える時がある。
なのに彼女の仕草は記憶を失くしていることを考えても、付け焼き刃で身につけたとは到底思えない。
こんな菓子を作る技術もどこで覚えたのか。
とにかく陛下には私たちが夫婦として上手くやっていけそうだと安心していただくことが出来た。
これも彼女がうまく立ち回ってくれたお陰だと思った。
邸に戻り再び書斎に入って彼女のことを考えた。
この邸にいる限りは心配ないだろうが、自分が砦にいる間に彼女は軍人遺族を支援したり、ベイル医師のところへ通ったりしていた。
自分がそのことについていい顔をしなかったこともあり、彼女は遠慮してそれらのことを諦めてくれるだろうか。
はたしてそれがいいことなのか。
彼女がやろうとしていることは決して悪いことではない。
侯爵夫人としては破天荒だが、やってはいけない法律はない。
むしろ無駄に音楽会や演劇などに通うより、よっぽど有益だ。
遺族への手助けも安全が確認されれば何の問題もない。
診療所の方は身分を偽らざるを得なかった理由もわかる。
自分が仕事のために彼女を構えないのに、彼女がやりたいと思うことを止める権利がある筈もない。
何より彼女の喜ぶ顔がもっとみたいと思った。
陛下との茶会の帰り際、陛下から明日もう一度一人で来るように言われ、朝から出かけることとなった。
玄関先で支度をしていると二階からクリスティアーヌが降りてきた。
紺のワンピースを着て階段を降りてくる彼女を見て、心が弾んだ。
どこへ行けば彼女は喜んでくれるだろうと考えながら、王宮へと向かった。
自分だけが呼び出されたのは、恐らくクリスティアーヌのことで、彼女に聞かせたくないことがあるのだろうとわかっていた。
「実はな……カロリーヌからの手紙はもう一通ある」
そう言って陛下が目の前に昨日、彼女に渡された手紙と同じ紙で書かれていた手紙を見せた。
「私が拝見してもよろしいのですか?」
「許す……卿には知っておいてもらいたい」
陛下から手紙を受け取り、すぐに内容を改める。
「………これは」
半分ほど読み進めておどろいて陛下を見る。黙って陛下が頷かれ、残り半分を読み終えた。
「これは……真実なのでしょうか………彼女の妄想では?」
「死を前にして錯乱していたとも考えられる。だが、虚言、妄想だと決めつけることもできない」
「これが本当なら、大変なことです」
「だからそなたに見せた。このことをクリスティアーヌは受け止められると思うか?記憶喪失のこともある。このことを知って彼女が更に追い詰められることを考えると、とても見せられなかった」
「陛下はこの話が真実だと思われますか?」
「思いたくはないが、可能性は否定できない。カロリーヌにその話を伝えた相手を探して確認する必要がある」
「陛下は既にその人物を探しておいでなのですか?」
「密かに探して、最近ようやく見つけた。どうやら一度王都から離れていたようだが、少し前に戻ってきているようだ。また行方をくらまさないように見張りをつけてある。どうする?余としてはそなたに任せたいと思っていたのだが、バーレーンのこともある。負担が過ぎるとは思うが……」
「いえ、是非私に……私の妻のことですから」
強くそう言えば、陛下が表情を和らげた。
「妻ということだけではなさそうだが……余の見立ては間違っていなかったと見える」
努めて感情を面に出さないようにしたつもりだったが、陛下にはすでに見透かされているようだ。
「ヒギンズを訪ねなさい。彼がその人物の所へ案内してくれる。まずは接触して信頼を得ることだ」
「承知いたしました」
「クリスティアーヌにこのことを伝える時期はそなたに任せる。全て裏が取れてからでも早い内でも、彼女の様子を見て決めなさい。もし真実が疑惑のとおりだったとしたなら、それを知ったあの子を支えられるのは夫であるそなただ」
「心得ましてございます。彼女にとって頼れる依り処の存在になりたいと思います」
まだ共に過ごした日にちは両手にも満たないが、彼女が側にいない自分の生活は既に想像できなくなっていた。
惜しむらくは、彼女が自分のことを自分と同じように思ってくれているのかわからないということだ。
邸に戻った日、ダレクやマリアンナが言っていた彼女の秘密について、彼女からはまだ打ち明けてくれていない。
信頼にたる存在だと彼女が思ってくれなければ打ち明けてくれないなら、いつまで待つべきなのだろう。
陛下に退室の挨拶をして、クリスティアーヌの護衛となる人物が待機する場所に向かいながら、早くその日が来ることを強く願った。