政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

「ああああーーー!」

自分の叫び声で起き上がった。

急に起き上がったせいかふらりとする。

「……こ、ここは?」

今さっき見た夢のせいで、まだ母と暮らしていた家にいるつもりになったが、見渡すとそこはただっ広い部屋の天幕を張った寝台の中だった。
お香でも焚いているのかその香りで頭がぼうっとする。

「く……」

あの後のことは今でも薄ぼんやりとしか覚えていない。階段の方に足を向けて仰向けに落ちた母の死に顔を階段上から見下ろした瞬間、頭が真っ白になった。

「ここは……?」

ルイスレーンが私を残してあの部屋を出ていき鍵を掛けた。それからケイトリンが声をかけてきて……彼女が誰かから逃げてきたのかと鍵を開けて……

頭痛がして頭を押さえていると、ガチャリと扉が開いた。

「……目が覚めたのか」

入ってきたのは初めて見る男性。

年はルイスレーンくらいだろうか?ほっそりとしていて、背はそこそこ高い。白磁の肌に淡く長い白金の髪。瞳はシルバーグレー。ゆったりとした白いシャツの前ははだけ、細身の黒いスラックスを履いている。

ルイスレーンと違い、どこか現実離れした美青年だ。

彼は私に近づいてきて、口許は笑っているが、その目はどこか冷めていて。

「……綺麗な金色の眼だ。これがエリンバウア王家の金か……」

彼が顔を近づけ見つめている。しかしその目には私が写っていても、彼が見ているのは私ではない。私の瞳に写る自分を見入っているのがわかる。

この男は自分しか愛さない男だ。なぜかそう思った。

「いや!」

男が息がかかるくらい顔を寄せてきたので顔を避けようとすると、顎をぎゅっと掴まれた。

「初々しいね……」

「ひ……」

顔を背けた頬に彼がベロリと舌を這わせた。

「ふふ、嫌悪と恐怖の味がする……」

「や、やめて……」

両手首を掴まれているだけなのに、何だか力が入らずうまく振り払えない。
嗅がされた薬が残っているのか、それとも部屋中に充満するこのお香の香りのせいなのか。

男は頬から首へと舌を這わせていく。

「いや……やめて」
「抵抗を止めて素直に身を任せれば極上の快楽が味わえるぞ」

心は拒否するのに体は言うことをきかない。頭の奥がじんじんと痺れて、男の声が乾いた土地に水が染み込むように体に浸透していく。

くちゅり……男の口が私の口を覆うように被さる。唾液が注がれ舌が麻痺したように痺れる。一体私の体に何が起こっているのだろう。

「ん………あ……ぁ」

知らずに涙が溢れる。それを男がべろりと舐め上げる。目尻に少し入った唾液にピリピリとした刺激が走った。

「……どこまで抵抗できるかな……その内もっと欲しいと別の意味で啼くようになるさ…」

耳の穴に男の舌先が捩じ込まれると、水中で聞こえる音のようにぐわんぐわんと伝わる。男の言っている意味がわからない。耳に入るのに理解できない。

「自分の奥方が他の男のものになったと知ったら、どんな顔をするかな……」

耳のすぐ側でくつくつと男は笑う。

「アレックス様……」

名前を呼ばれ男が動きを止める。

「なんだ?……ケイトリン」

私の目を見つめたまま声をかけた者の名を呼ぶ。

「ケイトリンはアレックス様の言われたとおり致しました……ご褒美を……ください」

男の瞳に一瞬剣呑な光が宿った。

「ケイトリン……悪い子だ。黙って待てないのか?」

男は後ろを振り返らずに私の耳朶を口に食みながらめんどくさそうに言う。

「その子を連れてくればご褒美をくれると約束されました。私にも…その子と同じことをしてください」

男の頭が影になってケイトリンの姿は見えないが、彼女の声音がだんだんと変化していくのがわかった。

「はあぁぉ……はぁ」

切なげなうわずった声……ぼうっとした頭でも彼女が欲情しているのがわかった。

「ち……」

私に口を寄せる男……ケイトリンはアレックスと言っていた……が舌打ちし、もう一度私に唾液を注いでから後ろを振り返った。

「……服を脱いでこっちへ来い」

着ていたシャツのボタンを外しながら男が言うと、寝台が軋んでケイトリンがよじ登って来たのがわかった。男の細い割に均整の取れた上半身が露になる。

「しっかり見ていろ」

親指と人差し指で両頬を挟んで私の目をしっかりと覗き込んでそう言ってから、膝立ちになってズボンを下ろす。

ルイスレーンのしか見たことがなかった私には衝撃的な光景だったが、思考が緩慢でただそのまま目に写る様子を眺めているしかなかった。

「アレックス様……」

私の方を向いている男の背後から、女の細腕が巻き付き、男の胸と腹部の辺りをまさぐり、肩越しから顔を突き出し男の唇を奪う。

「アレックス様……お願い……ください」

男の唇を貪るように吸い付き、舌を絡めて二人が熱い口づけを交わす様を見せつけられても、私はなぜか目を瞑ることができない。心の底では目を閉じたいと願うのに、腕で目を覆うことも顔を背けることも出来ず、まるでAV映画のワンシーンのように、ケイトリンの手が男の下半身に伸び、男のものをしごいていくのを眺める。やがてその先端から滲み出る精液が私のお腹に落ちてきて、それをぼーっと眺める。

「アレックス様……」

すぐ側でケイトリンが横たわり、男に足を開く。

「あああ……はあぁ」

向きを変えて男がケイトリンの腰を掴み、一気に貫くとケイトリンは歓喜の声をあげた。
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