政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
ー今度生まれ変わったら、お金なんてなくても相思相愛の人と一緒になりたいー

そう思って目が覚める。

いつの間にか泣いていたのか目の辺りが濡れている。

聞こえてくるのは鳥の囀り。


台風はいつの間にか去ったんだな。
そう思いながら何か違和感を感じた。

何かがおかしい。目を閉じて考える。

さっき鳥の声をきいて感じた違和感。
う~ん。

暫く考えて思い当たった。

当たり前のように聞こえていた音がしない。

空調の音。外を走る車の音。そして私の命を繋ぐ機械音。

そのことも驚いたが、目に飛び込んできた光景にもっと驚いた。

家の離れの和室に置かれたベットで寝ていた筈なのに、そこには障子ではなく大きなフレンチドアが嵌め込まれていて、重厚なカーテンがタッセルに纏められていた。

寝ているのも介護用の電動ベッドではなく、天涯つきのキングサイズの寝台だ。

「ここ……どこ?」

思わず呟く。

「やだ、私……声が!」

そして喋れていることにまた驚いて顔のまわりに手を持っていく。

「ない!何にもついていない」

喉についていたチューブも腕についていた点滴のチューブも、何もかもが取り外されている。

「あれ?私……これ、私の?」

目に飛び込んできた手を見て、記憶にある自分のものより白くほっそりしていることに気がついた。

事故に会う前はジムなんかに通ってそれなりに体も鍛えていた。
なのにこの腕では一番軽いダンベルも持てそうにない。

「ずっと寝てたからかな……」

事故にあってまだひと月。それでも筋力が衰えるのはあっという間なのだろう。

もう一度窓の方を見ようとして、仰向けから横向きに体を動かしてみると、何の抵抗もなくごろりと横向きに寝返り返りがうてた。

「治った?どうして?」

その時にふと目の隅に見えた何か……

「え?」

長く、艶々としたキャラメル色の髪。
肩までのショートボブの黒髪の筈。いつの間にかこんなエクステを付けたのか。

その時、後ろからガチャリと音がした。

「お、奥様」

女性の声がして起き上がって振り替えると、初めて見る女性が立っていた。

それどころか、日本人でさえない。

グレイヘアを頭の後ろでお団子に纏めた背の高い細身でハイネックの長い裾の茶色い洋服を着た女性が立っていた。

「誰?」

こてんと首をかしげそう訊ねると、彼女はとてもショックを受けた顔をした。
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