真面目系司法書士は年下看護学生に翻弄される


背が高くスッキリした顔立ちの都会風の男性だった。

「優菜、この人に見覚えない?会ったことあるよな?」

兄は少し困ったようにそう尋ねる。
優菜はしげしげと彼の顔を見ると、確かに見覚えがあった。

「あ、お母さんの時にお世話になった司法書士の……」

「……林です」

苦笑いした男性は低い声で名のった。

「お久しぶりです。その節は大変お世話になりました」

優菜は懐かしい気持ちになった。あのときはまだ18歳だった。当時、林さんの印象は『親切そうなおじさん』だった。

今あらためて見ると、それほどおじさんではないなと感じた。まだ30代半ばくらいかもしれない。意外と若かったんだ。

「俺は、何回か会っているんだけど、今回こっちに引っ越してきて駅前に事務所を構えたそうだよ。すごいよな若いのに、さすが司法書士の先生だけある」

なんだか変な兄の「よいしょっぷり」に笑いがこみ上げた。というかなぜ?いつの間に何度も会うような仲になったのか?不思議だった。

「ああ、事務所っていってもまだ始めたばかりで、従業員も僕一人だし、なんとか軌道に乗せようと頑張っているところです」

林さんは咳払いすると少し照れたように説明した。

駅前のマンションを自宅として購入し、一階の空き店舗を事務所として借りたらしい。
あそこは立地もいいし駅まで3分もかからないので、中古のマンションだとしても結構値が張るだろう。1階の店舗も借りるとなれば賃貸料もばかにならない。林さんはお金持ちなんだなと思った。

「でもなぜこの街に事務所を開いたんですか?」

東京の方が仕事は多いだろうと疑問に思い林さんに質問した。

「 主な司法書士の対応業務は、 遺産分割協議書の作成や、不動産の名義変更、相続関係。遺言書の作成や後見人手続き、不動産の生前贈与の手続きだから……」

言葉を濁す。

「あ、高齢者が多いってことですね」


「こういう言い方はどうかと思いますが、そうだね。お年寄りの割合が急激に増えている地区だよね。それと同業者がいなかったからかな」

なるほど納得。確かに高齢者が多い地域だ。

「カニバリにならないってことですね」

「ははっ、そうだね今風に言うと、カニバる事はないといえるね」

変に最近覚えた用語を使ってしまった。笑われた感じでなんか恥ずかしい。

大人の人の余裕っていうのか、落ち着いて話を合わせてくれる林さんは、二十歳そこそこの小娘とは違い立派な社会人なんだなと感じた。

優菜は少し居心地が悪くなりなぜか緊張した。


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