夏幻
――烏丸夕霧(からすまゆうぎり)


ふと前の方に座る彼に目がいく。


綺麗、夏椿みたいに。


彼の仕草は丁寧で一々美しく、どうしたって周りの男子が子供のように思える。



そんな彼が、手を上げる。


みんなが一斉に注目をし、先生が不思議そうな顔をした。



「ちょっとええですか。具合悪いんで、保健室行ってきても」

「おお、それは大変だ。ひとりで行けそうか? 烏丸」

「……そやったら、朱郷(あかさと)さん借りてええですか」

「朱郷を? 先生はべつに構わんぞ。お前はどうだ、朱郷」



何故か烏丸夕霧から指名を受け、保健室へ同行することになってしまった。――まさか、自分がこんな事になるなんて、誰が想像しただろうか。



でも、こんな機会逃すわけにはいかない。返事は即答だった。



「はい、私いきます!!」

「お、おお。烏丸の事頼んだぞ……?」

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