夏幻
“烏丸の事頼んだぞ”と言われたものの、一体先生は私にどうしろと……。


無言で前を歩く彼の背を、思わずじっと見つめる。無理に話せとは言わないが、せめて指名した理由くらい話す権利があるんじゃないか? ともやもやしたまま――いつの間にか保健室に着いてしまった。


しかし、中は空っぽ。


そんな事すらお構いなしに彼は、ベッドに向かいそのまま仰向けに倒れる。


「烏丸くん?!」

「べつにええでしょうよ、休みにきたんやから」

「それはそうだけど……って、それよりどうして私を指名したの? いい加減教えてくれてもいいでしょう」

「んー」


天井を眺めたまま彼は、ぽつりと呟いた。 


「あえていうなら……興味があったんっすわ」


そのまま視線はこちらへ――。


心音がどんどんうるさくなるのは、きっと気のせいじゃない。

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