【コミカライズ】おひとりさま希望の伯爵令嬢、国王の命により不本意にも犬猿の仲の騎士と仲良くさせられています!

最終話 やっぱり王様の命令は絶対!

「旦那様! 今日は絶対にリーリエ様に付きまとったりしないでくださいよ!」
「分かっているよ、ターナ。私が愛しているのはターナだけだと言っているじゃないか。リーリエ様は別格なんだ。あの方は女性というよりも、神の領域なのだから……!」
「旦那様!」


 こんな大切な日にまで、お祖父様とお祖母様はケンカをしている。
 ケンカするほど仲が良いと言うから、なんだかんだ言って仲良し夫婦なのだと思う。
 そんな二人の横には呆れ顔のお母様と、緊張のあまり震えているお父様。
 お兄様とイリスも、正装して待っている。


 十七歳の頃、おひとりさまで生きていくと決めた。

 おひとりさまって最高!
 その気持ちに、今も変わりはない。

 誰かに合わせて生き方を曲げたり、他人の目を気にしたり、そんなこととは無縁の生き方。
 自分が本当に好きなことを、正直に、自分らしく。それがおひとりさまの良い所なのだ。

 でも、そんな自由で自分らしい生き方を、誰かと共にできるとしたら?


「さあ、マリネット。ラルフ・ヴェルナーが待ってるわよ」
「お母様。私の旦那様になる方ですから、呼び捨てはやめてくださいね」
「あらごめんなさいね、ついつい癖で」


 犬猿の仲だったヴェルナー家とザカリー家は、私とラルフ様の結婚を機に仲良くやっていくことにしたそうだ。それもこれも全て、リーリエ様の一言がきっかけ。


「私、本当はクライン卿と結婚したかったのよね」


 この一言で、今まで敵対していたお祖父様とヴェルナー前侯爵様は完全に戦意喪失したそうだ。恋多き女に惚れると、男は大変らしい。お祖父様たちが女性恐怖症にならないことを祈ってる。
 


 メデル大聖堂に入り、ステンドグラスの前で微笑むラルフ様の元へ、一歩ずつ進む。彼は、男性に対する私の恐怖心を拭ってくれた人。口は悪いしいつも不機嫌顔だけれど、本当は私のことを尊重してくれる、優しい人。
 だから私はおひとりさまではなく、彼と一緒に生きてみようと思う。

 決してジーク国王陛下に命令されたからではなくて、私の意志で、ラルフ様と結婚することを選んだのだ。


 さて、ここからが大問題。


 結婚式と言えば、最後に誓いのキスをするでしょう?
 私ったら、ラルフ様とは手を繋いだことはあっても、いまだに直接キスをしたことがない。


(先に練習しておくべきだった……?)


 今になって不安が押し寄せて、『キスの練習』だなんて変態めいたことを考えてしまった。まるでラルフ様の変態性癖がうつったみたいだわ。

 私のウェディングドレス姿を見て、司教様の前に立つラルフ様は照れて鼻をこすっている。出会った時と同じ不機嫌顔なのに、今見ると何だか可愛らしく見えてくるのが不思議だ。

 将来の誓いの言葉を述べて、さあいよいよ。
 ラルフ様が私の頭にかかったヴェールをそっと上げる。

 彼の手は私の両肩に添えられ、少しずつ顔が近付いて来た。
 何を期待しているのか、招待客たちがゴクリと息を飲む音まで聞こえてくる。イリス、ヒューヒュー口笛鳴らすのやめなさい!


 ――私の目と鼻の先に、ラルフ様の唇が見えたその時。


(やっぱり無理!)


 私は先ほどラルフ様が上げたヴェールを、思い切りもう一度顔にかけた。ラルフ様はそのまま、ヴェール越しに私に口付ける。


「マリネット……!」


 どこからどう聞いても怒っているラルフ様の声は、大聖堂の床に響いた。


「ごめんなさい! やっぱりこういうのって、練習が必要だと思いません?」
「バカ言うな。こんな薄いヴェール一枚、挟んだって挟まなくたって同じだろ」


 ああ、やっぱり私たちの家は犬猿の仲。結婚式の最中までケンカしちゃうのね。ラルフ様は苛立ちで手をプルプルさせながら、もう一度私のヴェールを力いっぱい掴んだ。私は困り顔のまま、聖堂の最前列に座っているジーク様を見る。

 ジーク様は不思議そうな顔で私たちを見ていた。


「マリネット、ちゅーしないとダメだよ?」
「え?!」
「ほら、ジーク様も言っているじゃないか。諦めろ」
「そうですよ、マリネット・ヴェルナー様。早く諦めてちゅーしてください!」


 突然口を挟んで来た司教様の声を聞いて、いつぞやの大聖堂ステンドグラスを見学した日のことを思い出す。
 ……そうだった。このメデル大聖堂の司教様は、ジーク様にメロメロの言いなりなのだった。


(仕方ないなあ……。でも、ラルフ様なら大丈夫な気がする!)


 結局私は観念し、何だか逆にもったいぶってしまって恥ずかしくなった結婚の誓いのキスを、大歓声と拍手の中で、そっと受け入れた。



Fin
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