純愛カタルシス💞純愛クライシス
☆☆☆
家に帰ると、誰かが待っている幸せなんて、味わうことがないと思ってた。
「おかえりなさい、一ノ瀬くん。ご飯作っておいたよ」
部屋に漂う料理の匂いと、人がいるあたたかみ。今まで無機質なものばかりに囲まれていた空間とは思えない雰囲気が、そこにあって。
「幸恵さん、ありがとうございます」
それを噛みしめるたびに、心が満たされていくのを感じることができた。
「大好きな一ノ瀬くんのお世話ができると思うと、なんだか嬉しいの」
帰ったばかりの俺にぎゅっと抱きつき、満面の笑みでほほ笑む彼女に、迷うことなく細身の体に腕を回してキスをした。
「明日は泊まりの仕事なので、帰ることができないのが寂しいです」
「それはちょうどよかった。ウチの人が一週間ほど、こっちに帰ってくるの」
「旦那さんが帰ってくる……」
幸恵さんを抱きしめる腕に、自然と力がこもった。
「当然離婚の話し合いをしようと思うけど。ほかにもあの人に求められたら、応じなきゃいけないのよね」
物憂いな表情を見せる幸恵さんを間近で眺めているから、語気を強めて告げてしまう。
「そんなの嫌です。この家に逃げればいい」
「そういうわけにもいかないわ。話し合いをしなきゃいけないですもの」
俺のワガママに、幸恵さんは首を横に振った。
「だったら俺も、その話し合いに参加――」
「一ノ瀬くんは、まだ顔を出さないで。これは夫婦でしなきゃいけないことだから」
ピシャリと言い放たれたせいで、これ以上なにも言えなくなってしまった。
「一ノ瀬くんってば妬いてるの?」
「妬いてます。それに不甲斐ない自分がすごく嫌です」
「かわいい、そんな一ノ瀬くんが大好きよ」
旦那さんに手を出される彼女を見るだけで、ムダに嫉妬に駆られた。早く自分だけのものにしたくて堪らなくなる。不倫はいけないことだとわかっていたのに、好きという想いがどうにも自重できなくて、幸恵さんに夢中になる要因だったのかもしれない。
「成臣に好きな人ができた、だと!?」
互いの仕事がすれ違って、なかなか逢う機会に恵まれなかったアキラと飲むことが叶ったのは、幸恵さんと付き合って半年くらい過ぎた頃だった。
似たような仕事をしてるせいで、顔を会わせることはあまりなかったが、LINEでちょこちょこやり取りをかわしていた。しかしながら自身のプライベートを文字で告げることができず、顔を突き合せて知らせることに、内心ほっとする。
「アキラ、付き合ってる彼女と結婚したいと考えてるんだ」
「はぁあ? 結婚!? 仕事のし過ぎで、ついに頭のネジが外れたのか?」
「俺が誰かを好きになっちゃ駄目なのかよ」
アキラは小さい目を大きく見開き、アホ面丸出しで俺を見つめる。
「だってさ、これまでのおまえの行動を見てるからこそ、本気になる相手がこのタイミングで出るとは、予想外過ぎたんだ」
「アキラの予想も、あてにはならないもんだな」
「おかしい、滅多に外れることはないのに。ちなみに相手は、どんな人なんだよ?」
テーブルに身を乗り出して訊ねられたせいで、少しだけ言いにくくなってしまう。
「10歳上、アパートの大家……」
「嘘だろ、おい。てっきり歳下のかわいい系で、成臣が守ってあげたくなるような、可憐なコのイメージが崩れてしまっただろ!」
「またしても外したな」
「仕事をしたことで、人生観でも変わったのか? 年上なんて眼中になかっただろ。俺はどの年代でもオールオッケーだけど」
「アキラの間口の広さもどうかと思う」
心底呆れながら言うと、アキラは身振り手振りで説明する。
「それぞれの年代ならではの、いいところや素敵な部分があるんだって。成臣がそれに気づくとは、仕事で審美眼が養われたというのか?」
あっけらかんとカラカラ笑うアキラに、思いきって告げる。嫌な真実を伝えるには、いい雰囲気だった。
「あとさ、その……彼女人妻なんだ」
「はい、ギルティ! おまえ、慰謝料請求されるぞ」
ビシッと指を差しながら告げられたセリフに、声のトーンを落として現状を教える。
家に帰ると、誰かが待っている幸せなんて、味わうことがないと思ってた。
「おかえりなさい、一ノ瀬くん。ご飯作っておいたよ」
部屋に漂う料理の匂いと、人がいるあたたかみ。今まで無機質なものばかりに囲まれていた空間とは思えない雰囲気が、そこにあって。
「幸恵さん、ありがとうございます」
それを噛みしめるたびに、心が満たされていくのを感じることができた。
「大好きな一ノ瀬くんのお世話ができると思うと、なんだか嬉しいの」
帰ったばかりの俺にぎゅっと抱きつき、満面の笑みでほほ笑む彼女に、迷うことなく細身の体に腕を回してキスをした。
「明日は泊まりの仕事なので、帰ることができないのが寂しいです」
「それはちょうどよかった。ウチの人が一週間ほど、こっちに帰ってくるの」
「旦那さんが帰ってくる……」
幸恵さんを抱きしめる腕に、自然と力がこもった。
「当然離婚の話し合いをしようと思うけど。ほかにもあの人に求められたら、応じなきゃいけないのよね」
物憂いな表情を見せる幸恵さんを間近で眺めているから、語気を強めて告げてしまう。
「そんなの嫌です。この家に逃げればいい」
「そういうわけにもいかないわ。話し合いをしなきゃいけないですもの」
俺のワガママに、幸恵さんは首を横に振った。
「だったら俺も、その話し合いに参加――」
「一ノ瀬くんは、まだ顔を出さないで。これは夫婦でしなきゃいけないことだから」
ピシャリと言い放たれたせいで、これ以上なにも言えなくなってしまった。
「一ノ瀬くんってば妬いてるの?」
「妬いてます。それに不甲斐ない自分がすごく嫌です」
「かわいい、そんな一ノ瀬くんが大好きよ」
旦那さんに手を出される彼女を見るだけで、ムダに嫉妬に駆られた。早く自分だけのものにしたくて堪らなくなる。不倫はいけないことだとわかっていたのに、好きという想いがどうにも自重できなくて、幸恵さんに夢中になる要因だったのかもしれない。
「成臣に好きな人ができた、だと!?」
互いの仕事がすれ違って、なかなか逢う機会に恵まれなかったアキラと飲むことが叶ったのは、幸恵さんと付き合って半年くらい過ぎた頃だった。
似たような仕事をしてるせいで、顔を会わせることはあまりなかったが、LINEでちょこちょこやり取りをかわしていた。しかしながら自身のプライベートを文字で告げることができず、顔を突き合せて知らせることに、内心ほっとする。
「アキラ、付き合ってる彼女と結婚したいと考えてるんだ」
「はぁあ? 結婚!? 仕事のし過ぎで、ついに頭のネジが外れたのか?」
「俺が誰かを好きになっちゃ駄目なのかよ」
アキラは小さい目を大きく見開き、アホ面丸出しで俺を見つめる。
「だってさ、これまでのおまえの行動を見てるからこそ、本気になる相手がこのタイミングで出るとは、予想外過ぎたんだ」
「アキラの予想も、あてにはならないもんだな」
「おかしい、滅多に外れることはないのに。ちなみに相手は、どんな人なんだよ?」
テーブルに身を乗り出して訊ねられたせいで、少しだけ言いにくくなってしまう。
「10歳上、アパートの大家……」
「嘘だろ、おい。てっきり歳下のかわいい系で、成臣が守ってあげたくなるような、可憐なコのイメージが崩れてしまっただろ!」
「またしても外したな」
「仕事をしたことで、人生観でも変わったのか? 年上なんて眼中になかっただろ。俺はどの年代でもオールオッケーだけど」
「アキラの間口の広さもどうかと思う」
心底呆れながら言うと、アキラは身振り手振りで説明する。
「それぞれの年代ならではの、いいところや素敵な部分があるんだって。成臣がそれに気づくとは、仕事で審美眼が養われたというのか?」
あっけらかんとカラカラ笑うアキラに、思いきって告げる。嫌な真実を伝えるには、いい雰囲気だった。
「あとさ、その……彼女人妻なんだ」
「はい、ギルティ! おまえ、慰謝料請求されるぞ」
ビシッと指を差しながら告げられたセリフに、声のトーンを落として現状を教える。